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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第九十五話 帰る人


「できました」

 パウラの声は、興奮を抑えきれないように弾んでいた。

 帝都の工房、机の上には、見たことのない形の魔法陣が描かれている。

「人を送る術、確立できたの?」

 江理が尋ねると、パウラは大きく頷いた。

「まだ、絶対確実とは言い切れない。でも、理論上は、十分可能な域に来てる」

「危険は」

「ゼロじゃない。でも、物を送る実験は、百回以上成功してる。人でも、同じ理屈が通用するはず」

 パウラの目には、研究者としての確信と、わずかな緊張が同居していた。

 ◇

 その知らせを受けて、真っ先に工房を訪れたのは、仁だった。

「パウラ殿。お願いがあります」

「レイモンド先生?」

「私を、日本へ送ってほしい」

 少し驚いた顔を、パウラがした。

「本気、ですか」

「本気です」

 まっすぐ、パウラを見た。

「私は、何十年も前に、この世界へ連れてこられた人間です。帰る道があるなら、そこに賭けたい」

 しばらく仁を見つめてから、パウラは頷いた。

「分かった。準備を進める」

 ◇

 その夜、仁は、桜子の元を訪れた。

「サクラコ殿」

「聞きました。パウラさんのところへ、行ったそうですね」

 桜子の声は、硬かった。

「はい」

「本当に、帰るんですか」

「まだ、決めたわけではありません。でも、可能性があるなら、試してみたいと思ったんです」

 しばらく、言葉が返ってこなかった。

 それから、意を決したように、口を開いた。

「一緒に、戻りませんか」

 その言葉に、仁の方が驚いた。

「サクラコ殿?」

「もし、仁さんが帰るなら。私も、一緒に」

 桜子は、まっすぐ仁を見た。

「日本に、未練はないつもりでした。でも、仁さんが行くなら、話は別です」

 仁の口から、すぐには言葉が出なかった。

「……それは、本気の申し出ですか」

「本気です」

 桜子は、きっぱりと答えた。

「一人にしたくないんです。仁さんを」

 その言葉に、仁の目が、揺れた。

「ありがたい申し出です。でも」

「でも?」

「あなたは、ここで必要とされている人です。セレネ様も、サラ様も、他宮の方々も」

 静かに、続ける。

「あなたまで連れていくのは、私のわがままが、あまりにも過ぎます」

「仁さんは、どうなんですか」

 桜子の声に、少し強さが戻った。

「仁さんも、ここで必要とされてる。宮廷医として、何十年も、ちゃんと役目を果たしてきた」

「それでも」

 仁は、窓の外に目をやった。

「日本に、家族がいます。妻子はいませんが、両親や、兄弟は」

「……生きて、いますか」

「分かりません。もう、何十年も前のことですから」

 その声には、長い年月の重みがあった。

「生きていようと、亡くなっていようと、一度、確かめたいんです。あの日、何も言わずに消えた自分が、どう思われていたのか」

 その言葉に、桜子は何も返せなかった。

 二人の間に、答えの出ない沈黙が、静かに横たわっていた。

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