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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第九十一話 新しいチーム

「ピーコックへ、一緒に行きませんか」

 江理がそう切り出したのは、桜子が後宮ですっかり頼られる存在になった頃だった。

「ピーコック?」

 桜子は、少し驚いたように聞き返した。

「ここでの仕事、まだ始まったばかりなのに」

「分かってる。でも、だからこそ、一度顔を合わせておいてほしくて」

 江理は、簡単に事情を説明した。

「後宮の対応は、こちらが中心で構わない。ただ、向こうにも、婦人科を一緒にやっていく仲間がいるの。桜子さんの知識、あっちでも必要としてる人がいる」

「仲間、ですか」

「うん。一度、会ってもらいたくて」

 桜子は、しばらく考え込んだ。

「セレネ様に、お許しをいただけるでしょうか」

「もう、話は通してある。少しの間なら、構わないって」

「それなら」

 桜子は、少し考えてから頷いた。

「お願いします。ここでのことも、まだ手探りですけど」

「大丈夫。少しずつでいいので」

 ◇

 帝都ローズからピーコックまで、馬車で数日の旅だった。

 道中、桜子は窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。

「こうして見ると、本当に、別の世界なんですね」

「うん。最初は、私もそう思った」

 江理は、懐かしそうに笑った。

「今は、どっちも、大事な場所」

「羨ましいです。そう言えるのが」

 その言葉に、江理は少し驚いたが、何も言わなかった。

 桜子にも、桜子なりの時間が、これから必要なのだろうと思った。

 ◇

 ピーコックに着くと、診療所の前で、ハンナとアイリス、そしてアメリアが待っていた。

「初めまして。ハンナです」

「アイリスです。薬草を担当してます」

「アメリアと申します」

 三人が、順番に挨拶する。

「こちらこそ、初めまして。桜子です」

 桜子は、少し緊張した様子で頭を下げた。

「産婦人科医として、お力になれればと思います」

「頼もしいです」

 アイリスが、嬉しそうに笑った。

「私たち、専門じゃない分野だったので、本当に助かります」

「専門じゃないのに、ここまでやってきたんですか」

 桜子が、少し驚いた顔をする。

「はい。できることから、少しずつ」

 ハンナが、落ち着いた声で答えた。

「症状を聞き取ることとか、記録をつけることとか。専門知識がなくてもできることは、たくさんありましたから」

「それ、素晴らしいと思います」

 桜子の表情が、少し和らいだ。

「大病院だと、専門外のことには、誰も手を出さないのが普通でした。ここでは、違うんですね」

「違います」

 江理が、横から答えた。

「一人が全部を背負うんじゃなくて、できることを、みんなで持ち寄る。それが、ここのやり方だから」

 桜子は、その言葉を、噛みしめるように聞いていた。

「私も、ここに加わっても、いいんでしょうか」

「もちろんです」

 アメリアが、笑顔で答えた。

「サクラコ先生の知識、きっと、たくさんの人を助けます」

 その一言に、桜子の目が、わずかに潤んだ。

「よろしく、お願いします」

 深く、頭を下げる。

 ハンナ、アイリス、アメリア、そして桜子。

 ようやく、ピーコックブルー王国の婦人科チームが、形になった瞬間だった。

 ◇

「せっかくだから、庭も見ていきませんか」

 アイリスが、そう提案した。

「庭?」

「『アイリスの庭園』っていって、今、少しずつ広げてるところなんです」

 案内されるまま、薬草園へ向かう。

 以前よりも、さらに緑が増えていた。カモミール、ルイボス、ジャスミン、そして見慣れない花々が、きちんと区画ごとに育てられている。

「これ、全部、お茶に使えるんですか」

 桜子が、興味深そうに花々を眺める。

「はい。妊娠中でも安心して飲めるものを中心に、集めてます」

「素敵な発想ですね」

 桜子は、しゃがみこんで、カモミールの花に顔を近づけた。

「大病院にいた頃は、こういう、ゆったりした時間とは無縁でした」

「ここなら、ゆっくりできますよ」

 アイリスが、微笑んだ。

「お茶、淹れましょうか」

「ぜひ」

 ◇

 庭の隅のベンチで、一同が茶を囲んでいると、見覚えのある姿が近づいてきた。

「あれ、お客さん?」

 マイミだった。

「マイミさん」

 江理が、手を振る。

「紹介します。桜子さん。帝都ローズで召喚された、産婦人科医です」

「マイミです。内科を担当してます」

 マイミが、気さくに挨拶する。

「あなたが、例の天才医師?」

「天才だなんて、そんな」

 桜子が、慌てて首を振った。

「謙遜しなくていいよ。江理ちゃんから、話は聞いてる」

 マイミは、楽しそうに笑った。

「これで、やっと婦人科に強い人が揃ったね」

「はい。心強いです」

 江理が、頷く。

「これからよろしくね、桜子さん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 茶を飲みながら、しばらく他愛のない話が続いた。

 この国の暮らしのこと、薬草のこと、これからのチームの進め方。

 桜子は、その輪の中に、自然と溶け込んでいく自分を感じていた。

 大病院では、決して得られなかった、温かい居場所だった。

「ここに来て、よかった」

 ぽつりと漏れたその一言に、誰も特別な反応はしなかった。

 ただ、アイリスが隣で、静かに頷いただけだった。

 それが、桜子には、何より嬉しかった。

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