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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第八十八話 呼ばれた医師

 召喚の日、皇宮の一室には、緊張した空気が満ちていた。

「準備は、整いました」

 パウラが、床に描かれた魔法陣を見下ろしながら言った。

 複雑に入り組んだ文様が、淡い光を帯びている。

「条件は、絞り込んだ通り。産婦人科の専門知識を持ち、今の環境を変えたいと強く願っている人物」

「強く願っている、って条件、大事なの?」

 江理が尋ねると、パウラは頷いた。

「召喚は、向こう側の意思とも、少し繋がるものだから。全く望んでいない人を呼ぶより、何かを求めてる人の方が、繋がりやすい」

 その言葉に、江理は、自分が呼ばれたときのことを思い出した。

 あのとき、果たして自分は、何を求めていたのだろう。

 ◇

「始めます」

 パウラが、両手を魔法陣の中心にかざした。

 シリルも、横でその補助に回る。

 光が、ゆっくりと強さを増していく。

『かみさま、てつだう!』

 ノアとピコが、光の中に飛び込んでいった。

 二人の光が、パウラの魔法陣と溶け合うように混ざり合う。

 光は、やがて人の形を取り始めた。

「来る……!」

 シリルが、緊張した声で叫んだ。

 まばゆい光が、部屋いっぱいに広がり、そして、ふっと収まった。

 光の消えた場所には、一人の女性が、呆然と立ち尽くしていた。

 三十代後半ほどだろうか、白衣に似た服を身にまとい、戸惑った表情で周囲を見回している。

「……ここ、どこですか」

 震える声が、静寂を破った。

「大丈夫ですか」

 江理は、すぐに駆け寄った。

「私、江理といいます。あなたと同じ、日本から来た人間です」

「日本人……?」

 女性の目に、驚きと、わずかな安堵が浮かんだ。

「私は、桜子といいます。産婦人科医です」

 その自己紹介に、江理は小さく笑った。

「よかった。本当に、専門の先生が来てくれた」

「どういう、状況なんですか」

 桜子は、まだ混乱した様子だった。

「突然、目の前が光って、気づいたら」

「順番に説明します。驚かせてしまって、ごめんなさい」

 江理は、できるだけ落ち着いた声で続けた。

「ここは、異世界です。私も、数年前に、同じように呼ばれました」

「異世界……」

 桜子は、しばらく、その言葉を噛みしめるように黙っていた。

 それから、意外にも、乾いた声で続けた。

「そう、ですか。異世界」

「驚かないんですか」

「驚いてます。でも」

 桜子は、周りを見回しながら、ゆっくりと息を吐いた。

「正直、どこでもいいから、あの病院から離れたいって、ずっと思ってたので」

 その言葉に、江理は、何かを感じ取った。

 この人にも、きっと、ここに来るだけの理由があったのだろう。

「ゆっくりで大丈夫です。少しずつ、説明していきますね」

「お願いします」

 桜子は、そう言うと、初めて小さく微笑んだ。

 その笑顔には、疲れの色と、わずかな期待が、同時に滲んでいた。

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