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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第八十七話 召喚の準備

「召喚の許可を、お願いしたいです」

 シアンの執務室で、江理はライリーに向き合う。

「婦人科医を、新たに呼びたいと」

「はい。パウラという、帝都の召喚士に協力してもらう予定です」

 しばらく考えてから、ライリーが頷いた。

「うちの国としては、構わない。ただし」

「はい」

「呼んだ以上、その人間を、きちんと迎える責任がある。分かっているな」

「はい」

 しっかりと、頷いた。

 自分たちが作った、あの法律のことが、頭をよぎった。

 言葉だけで終わらせず、ちゃんと守っていく。それが、今、目の前にある。

「許可する。だが、帝国側の了承も、別に取る必要があるぞ」

「それも、お願いしたいことがあって」

 少し間を置いてから、続けた。

「私も、一緒に帝都へ行きたいです」

「お前がか」

「はい。これは、ただの医療人員の補充じゃないので」

 言葉を選びながら、話す。

「異世界から、また一人、誰かが呼ばれる。その人がどう扱われるかは、私にとっても、他人事じゃないんです」

 しばらく、江理を見ていた。

「体の方は、本当に大丈夫なのか」

 ライリーの声に、硬さが混じった。

「まだ、本調子じゃないだろう」

「無理はしません。往復するだけですし、話をするだけなので」

 江理がそう答えると、部屋の入り口から、静かな声がした。

「それなら、私も一緒に行こう」

 ミラだった。

「ミラさん」

「一人で行かせるのは、心配だからね」

 ミラは、優しく、それでいてきっぱりとそう言った。

「何かあれば、すぐに私が動く。それでいいだろう、ライリー」

 ライリーは、少し間を置いてから、頷いた。

「……分かった。母上に付き添ってもらえ」

「ありがとうございます」

 江理は、深く頭を下げた。

 ◇

 帝都ローズ、皇宮の一室。

 アーサーと、セレネが、江理たちを迎えた。

「召喚の件、ライリーからの書状で、話は聞いている」

 アーサーが、静かに切り出した。

「婦人科の専門医が、こちらにも、そちらにも必要だということだな」

「はい」

 シリルが、緊張した面持ちで答える。

「私からも、お願いがございます」

 セレネが、静かに口を開いた。

「後宮の者たちの体のこと、これまでも江理殿たちに助けられてきました。けれど、専門の知識を持つ方に、継続して診ていただけたら、どれほど心強いか」

「皇后様が、直接のご希望を」

「はい。叶うなら、後宮の対応を、お願いしたいのです」

 そこで、一歩前に出る。

「陛下、皇后様。一つ、お願いしたいことがあります」

「申してみよ」

「召喚される方には、必ず、帰る権利があることを、最初に伝えてほしいんです」

 その言葉に、部屋の空気が、少し変わった。

「私も、マイミも、望んでここへ来たわけじゃありません。それでも、今は、ここにいることを選んでいます」

 まっすぐ、アーサーを見た。

「選べることが、何より大事だと思うんです。帰りたければ帰れる、ここにいたければいられる。その両方が、ちゃんと保証されててほしい」

 しばらく、何も返ってこなかった。

「……承知した」

 やがて、そう答えた。

「ピーコックブルーの法に倣い、帝国としても、召喚者の扱いに関する規定を、改めて整える」

「ありがとうございます」

 深く、頭を下げた。

 ◇

 話し合いを終え、皇宮を出た帰り道、シリルがぽつりと呟いた。

「江理さん、すごいですね」

「何が?」

「普通、召喚の許可を取るだけで、こんな話まではしないと思います」

 少し考えてから、答える。

「誰かを呼ぶってことは、その人の人生を、こっちの都合で動かすってことだから」

 そこだけは、どうしても譲れない。

 これから来るかもしれない誰かのために、できる限りのことをしておきたい。

 その思いを胸に、江理は帝都の空を見上げた。

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