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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第八十五話 動き出すシリル

 アイリスの薬草園に、マルコが姿を見せたのは、庭の構想を固め始めた頃だった。

「これは……」

 マルコは、まだ小さな庭を、商人らしい目でぐるりと見渡した。

「エリーさんが、庭を広げようって話してて」

 アイリスがそう説明すると、見る間に、マルコの目が輝いた。

「素晴らしい。実に、素晴らしい発想でございます」

「大袈裟だよ」

 江理が苦笑すると、マルコは首を振った。

「いいえ。庭を眺めながら茶を楽しむ場所、しかも身分を問わず入れるとなれば、きっと人が集まります」

「今はまだ、こんな小さな庭だけど」

「小さくて結構。むしろ、育っていく様子ごと、楽しみにする客も出てまいりましょう」

 マルコは、懐から手帳を取り出し、何やら熱心に書き込み始めた。

「庭師の手配、鉢や卓の調達、茶葉の仕入れ。まずは、ピーコックとパールで試してみるのはいかがでしょう」

「試験的に、ってこと?」

「はい。小さく始めて、評判を見ながら育てる。これも、商いの常道でございます」

 その言葉に、アイリスが嬉しそうに頷いた。

「よろしくお願いします」

「お任せを」

 ◇

 話が盛り上がっていたところへ、見覚えのある青年が、おずおずと顔を覗かせた。

「あの……江理さん?」

「シリル?」

 声が、少し裏返った。

「久しぶり! どうしたの、こんなところに」

「召喚術の資料を探しに、こちらまで足を延ばしていて。そうしたら、庭の噂を小耳に挟んだので」

 シリルは、少し照れくさそうに頭をかいた。

「それに、その、江理さんにも、会いたかったので」

「相変わらず、素直だね」

 江理は、にやりと笑った。

「ところで、シリル。最近、腰は曲がってない?」

「な、何の話ですか」

「召喚術の勉強、根を詰めすぎて猫背になってなかった?」

「……なってます」

 肩を、シリルがしょんぼりと落とす。

「ほら、やっぱり」

「からかわないでくださいよ」

 アイリスが、その様子を見て、くすりと笑った。

「シリルさん、相変わらずですね」

「アイリスさんまで」

 ため息をつきながらも、シリルはまんざらでもなさそうだった。

 それから、ふと真剣な顔になった。

「実は、相談したいことがあって」

「相談?」

「婦人科の医師が、まだこの国にいないって話、聞きました。その、召喚術で、何とかならないかと思って」

 その一言に、江理は少し驚いた。

「わざわざ、それで?」

「江理さんたちが頑張ってるのに、僕だけ何もしないのは、違う気がして」

 以前にはなかった真剣さが、シリルの目にあった。

 江理は、その顔を見て、少し嬉しくなった。

「じゃあ、お願いしようかな」

「任せてください」

 胸を張って、シリルが答えた。

 まだどこか頼りない姿だったが、確かに一歩、前に進もうとしている。

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