↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第5章 王太子妃になったら、スランプになっちゃった。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/105

第八十三話 それでも、そばに

 それから、江理は部屋にこもるようになった。

「エリー様、お食事を」

 アメリアが声をかけても、ほとんど返事はなかった。

 運ばれてきた食事も、半分も手をつけないまま下げられることが多かった。

「少しだけでも」

「……ありがとう。でも、今はいい」

 その一言すら、絞り出すように言うのがやっとだった。

 ◇

 マイミが様子を見に来ても、江理はベッドの中から動こうとしなかった。

「江理ちゃん」

「……ごめん、今、誰とも話したくない」

「うん。分かった」

 マイミは、それ以上、何も言わなかった。

 部屋の入り口に、そっと果物の籠だけを置いて、静かに去っていった。

 ◇

 アイリスから、手紙が届いた。

 開くことができないまま、机の引き出しにしまい込んだ。

 読んだら、きっと涙が止まらなくなる。そんな予感がした。

 ◇

 毎日部屋を訪れたのは、オジーだけだった。

 何も言わず、ただ、江理の隣に座った。

「……今日も、来たの」

「ああ」

「何も、話すことないよ」

「別に、話さなくていい」

 そう言って、窓の外を見る。

 江理も、黙って天井を見つめた。

 会話らしい会話もないまま、時間だけが過ぎていった。

 それでも、毎日同じように、オジーは部屋を訪れ続けた。

 ◇

 五日目の夜、江理は、ようやく口を開いた。

「……オジー」

「うん」

「私、何のために、こんなに頑張ってきたんだろう」

 その声は、かすれていた。

「医者になって、この世界に来て、国を作って、結婚して。それでも、一番欲しかったものは、守れなかった」

「江理」

「何にも、ならなかった」

 江理は、自分の手を見つめた。

「全部、無駄だったのかもしれない」

 しばらく、何も返ってこなかった。

 それから、静かに、けれどはっきりと言った。

「無駄じゃない」

「でも」

「江理が頑張ってきたことは、ちゃんと形になってる。ピーコックの診療所も、鎮痛剤も、所有物にしない国の法律も、全部、江理がいたから生まれたものだ」

「それと、これとは」

「違うことは、分かってる」

 江理の手を、オジーが取る。

「それでも、言わせてくれ。お前がやってきたことは、無駄じゃない。今回のことで、その全部が消えるわけじゃない」

 江理は、何も言えなかった。

 ただ、オジーの手の温かさだけが、確かに伝わってきた。

「無理に元気になれとは言わない」

 オジーが、続ける。

「泣きたいだけ泣けばいい。何もしたくないなら、それでいい。ただ」

「ただ?」

「一人にはしない」

 その一言に、江理の目から、堰を切ったように涙が溢れた。

 声を上げて、子供のように泣いた。

 これまで、誰にも見せたことのない泣き方だった。

 何も言わず、江理を抱きしめた。

 腕の中で、江理は泣き続けた。

 それでも、その腕の確かさだけが、今の江理を、この世界に繋ぎ止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。