第八十一話 駆けつける家族
「江理!」
最初に部屋へ飛び込んできたのは、オジーだった。
床に横たわる江理の姿を見た瞬間、その顔から血の気が引いた。
「江理、江理!」
「殿下、落ち着いてください」
アメリアが、震える声ながらも、気丈に声をかけた。
「エイト先生とマイミ様は、もうすぐいらっしゃいます」
「俺は、何をすれば」
「場所を空けていただけますか」
その時、廊下の向こうから、足音が近づいてきた。
「江理!」
駆けつけたのは、ミラだった。
オジーの母であり、かつて自身も病で長く伏せっていた人。
「ミラさん」
江理が、かすれた声で呼ぶ。
「喋らなくていい」
ミラは、すぐさま江理のそばに膝をついた。
「大丈夫。大丈夫だからね」
その声は、震えていたが、不思議と江理の心を落ち着かせた。
ミラは、江理の手を握り、額の汗を拭った。
「私も、昔、こうして誰かに支えてもらった。今度は、私の番」
その言葉に、江理の目から、また涙がこぼれた。
◇
ほどなく、エイトとマイミが駆けつけた。
「状況は」
エイトの声は、医師としての冷静さを保っていた。
「出血があります。意識はありますが、顔色が悪く」
アメリアが、的確に報告する。
「よくやった」
エイトは短くそう言うと、すぐに江理の様子を診始めた。
マイミも、その隣に膝をつく。
「江理ちゃん、聞こえる?」
「うん……」
「大丈夫。私たちがいるから」
マイミの手が、優しく江理の額に触れた。
◇
部屋の外では、ライリーとマーサが、静かに事態を見守っていた。
「中には、入らないんですか」
オジーが、不安げに尋ねる。
「今、入っても、俺たちにできることはない」
ライリーの声は、抑えられていたが、その手は固く握られていた。
「エイトとマイミに任せる。それが、今できる最善だ」
マーサは、何も言わず、ただ扉の方を見つめていた。
その横顔には、これまで見たことのない、深い心配の色があった。
◇
部屋の中、ミラは、江理の手を握り続けていた。
「怖いよね」
「……はい」
「分かるよ。私も、怖かった」
ミラの声には、経験した者だけが持つ、確かな重みがあった。
「でも、一人じゃないから。それだけは、忘れないで」
江理は、その言葉に、小さく頷いた。
視界が霞む中、周りにいる人々の気配だけが、はっきりと感じられた。
オジーの震える手。
ミラの確かな体温。
エイトとマイミの、冷静な声。
扉の外で見守る、ライリーとマーサの気配。
一人ではなかった。
その事実だけが、今の江理を、かろうじて繋ぎ止めていた。




