第六十九話 これからの話
数日後、ライリーとマーサ、オジー、そして江理が、シアンの一室に集まっていた。
「聞いた」
ライリーが、開口一番そう言った。
「息子と、想いを確かめ合ったそうだな」
「……はい」
江理は、少し照れくさくなりながら頷いた。
「それで、今日は、これからのことを一緒に考えたくて」
「一緒に、か」
マーサが、興味深そうに目を細めた。
「言ってみな」
「私、これからも医者を続けたいです」
江理は、まず一つ目を口にした。
「王太子妃になったからって、それをやめるつもりはありません」
「当然だ」
オジーが、すぐに答えた。
「江理が医者じゃなくなったら、江理じゃなくなる」
その言葉に、マーサが笑った。
「言うようになったじゃないか」
「母上に育てられたので」
軽口の応酬に、江理は少し肩の力が抜けた。
「でも、これは私だけの希望じゃなくて、どうやったら叶うか、皆さんの知恵も借りたいんです」
「そうだな」
ライリーが、腕を組んだ。
「王太子妃には、公務もある。だが、医療の仕事と両立できないわけじゃない。分担すればいい」
「分担、ですか」
「公務の一部は、他の者に任せられる。お前にしかできない仕事――診療は、お前がやればいい」
その言葉に、江理は少し驚いた。
「そんなに、簡単に決めていいんですか」
「簡単じゃない。だが、無理でもない」
ライリーは、はっきりと言った。
「うちの国は、そういう国にすると決めただろう」
「はい」
江理は、深く頷いた。
「もう一つ、話しておきたいことがあります」
「聞こう」
「世継ぎのことです」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ張り詰めた。
「私は、子どもを産むためだけの存在にはなりたくありません。サラ様のことがあって、なおさらそう思うようになりました」
「当たり前だ」
ライリーが、迷わず答えた。
「跡継ぎは、生まれたときに考えればいい。いなければ、いないなりのやり方を作るまでだ」
オジーも、頷いた。
「俺も、同じ考えだ。江理に、そんな重荷を背負わせたくない」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「ありがとう」
「それと」
江理は、最後にもう一つ付け加えた。
「私が医療のことで判断を誤ったときは、きちんと指摘してください。王太子妃だからって、遠慮しないでほしいんです」
「言われなくても、そうするさ」
マーサが、あっさりと答えた。
「あんたが間違えたら、あたしが一番先に言うよ」
「頼りにしてます」
話がひと段落すると、ライリーが江理を見た。
「他には」
「今のところは、それくらいです」
「随分、控えめだな」
「そうですか?」
「もっと、色々あるかと思っていた」
江理は、少し考えてから答えた。
「本当は、他にも色々あります。でも、これから一緒に暮らしていく中で、その都度話していけばいいかなって」
「それでいい」
ライリーが、静かに頷いた。
「一度に、全部決める必要はない」
江理は、皆の顔を順に見た。
一人で抱え込んでいたはずの不安が、いつの間にか、皆で分け合うものに変わっていた。




