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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

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第六十八話 他国の王女

 シアンの城に、思いがけない知らせが届いた。

「ゼファリアから、縁談の申し入れが?」

 執務室で、書状を手にしたライリーの言葉に、聞き返してしまう。

「ああ。オスカーに、だ」

 ライリーは、書状を卓に置いた。

「ヤスミン第二王女を、正妃にどうか、という話だ」

「ヤスミン様……」

 江理も、その名前には聞き覚えがあった。オジーが、時折その名を口にしていたからだ。

 こちらを、ライリーが見る。

「顔色が悪いぞ」

「いえ、大丈夫です」

 そう答えたものの、頭の中では、様々な考えが渦巻いていた。


 ◇


 その夜、江理はオジーの部屋を訪ねた。

「ヤスミン様の話、聞いた」

「ああ」

 短く、オジーが答える。

「断る」

「……どんな方なの?」

 江理は、思い切って尋ねた。

「幼い頃、父上に連れられて、一度会ったことがある。それから、何度か手紙のやり取りもした」

「手紙?」

「うちが国を興すことになったとき、誰より喜んでくれた一人だ。ゼファリアも、昔うちの旧王家と縁があったらしくてな」

 オジーは、そこで一度言葉を切った。

「幼馴染みたいなものだ。それ以上でも、それ以下でもない」

 江理は、その説明を聞いて、かえって落ち着かなくなった。

 顔も知らない相手より、むしろ人となりの見える相手の方が、比べてしまう分だけ重い気がした。

「王女様なんでしょう。身分も、年も、私よりずっと釣り合いが取れてる。しかも、オジーのこと、よく知ってる人なんだよね」

「それが、何だ」

「だって」

 江理は、言葉を探した。

「私、十も年上だし、王家の生まれでもない。ヤスミン様となら、国同士のことを考えても、色々うまくいくんじゃないかって」

 オジーは、しばらく江理を見つめていた。

「江理」

「うん」

「国のために結婚するなら、そもそも江理に好きだって言ってない」

 その言葉に、何も言えなくなった。

「ヤスミン様のことは、大事な人だと思ってる。それは本当だ。でも、それとこれとは別だ」

「別、って」

「身分とか、年とか、そういうことで選ぶ気なら、とっくにそうしてる。俺が欲しいのは、江理だ」

「……でも、周りは、そうは思わないかもしれない」

「周りがどう思おうと、関係ない」

 オジーの声には、迷いがなかった。

「江理は、俺が選んだ相手じゃなくて、他の誰かが選んだ方がいいと思ってるのか」

「そういうわけじゃ」

「なら、それでいい」

 少し、オジーの表情が緩んだ。

「不安になる気持ちは、分かる。でも、俺の答えは変わらない」

 江理は、しばらく黙っていた。

 それから、小さく息を吐いた。

「……ありがとう」

「礼を言われることじゃない」

「言いたいから、言ってるの」

 少し照れたように、視線を逸らす。

「ヤスミン様への返事は」

「もう、断りの返書を書いた。友人として、これからも変わらずにいたいとも添えて」

「そう」

 江理は、ようやく肩の力を抜いた。

「私、変なこと考えちゃってごめん」

「変なことじゃない」

 静かに、オジーが首を振った。

「江理がそう思うのも、無理はない。だから、これからも、思ったことは言ってほしい。一人で抱え込むな」

 その言葉に、頷いた。

 窓の外には、いつもと変わらないシアンの夜があった。

 それでも、江理の中で、何かが一つ、確かに軽くなっていた。

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