第六十七話 気づいてしまった気持ち
十八歳の誕生日から数日、江理はなかなか眠れない夜を過ごしていた。
寝台に横になったまま、天井をぼんやり眺める。
もう、「まだ十七歳だから」という理由は使えない。それなのに、肝心なことが、まだ自分の中で言葉になっていない。
――私は、オジーのこと、どう思ってるんだろう。
考えようとすると、思い浮かぶのは、いつも小さな場面ばかりだ。
視察から帰ってきたオジーが、疲れた顔で笑ったこと。
失敗を認めて、それでも次の日には立て直していたこと。
誕生日の夜、庭で「待つのは得意になった」と言った、少し照れたような声。
その一つひとつを思い出すたび、胸の奥が、じんわりと温かくなる。
――これは、何だろう。
弟のように思っていたはずだ。危なっかしくて、目が離せなくて、だから気にかけていただけだと思っていた。
でも、最近は違う。
オジーが他の誰かと親しげに話しているのを見ると、少しだけ落ち着かない気分になる。
視察で数日会えないと、必要以上にその日を指折り数えている自分がいる。
これは、弟に対する感情ではない。
◇
翌朝、診療所の帰り道で、マイミに声をかけられた。
「江理ちゃん、なんか顔つき変わったね」
「そう?」
「うん。何か、吹っ切れたみたいな」
少し迷ってから、昨夜のことを話す。
黙って最後まで聞いてから、マイミが呆れたように笑った。
「それ、とっくに好きになってたってことじゃない」
「……そうなのかな」
「そうだよ。周りは、とっくに気づいてたと思うけど」
「え、そうなの?」
「うん。江理ちゃんだけ、気づいてなかった」
その一言に、少し恥ずかしくなる。
「私、鈍いんだね」
「医者としては鋭いのにね」
からかうように、マイミが言う。
「まあ、遅くても、気づけたならよかったじゃない」
◇
その夜、江理はオジーを庭へ呼び出した。
「話が、あります」
「なんだ、改まって」
「ずっと考えてた。オジーのこと、弟みたいに思ってるだけだって」
「……うん」
「でも、違った」
まっすぐ、オジーを見た。
「いつの間にか、好きになってた」
その一言に、オジーが息を呑む気配がした。
「本当か」
「本当」
頷いた。
「だから、ちゃんと考えて出した答え。私、オジーのこと好き」
しばらく、何も返ってこなかった。
それから、深く息を吐き、目元を手で覆う。
「……泣くほど?」
「うるさい」
声は震えていたが、そこには確かな喜びが滲んでいる。
「十七の頃から、ずっと待ってたんだ」
「知ってる」
「待った甲斐、あったな」
小さく笑った。
「これから、色々考えなきゃいけないこともあるけど」
「一緒に考える」
まっすぐ、オジーが言う。
「一人で全部背負おうとするなよ」
その言葉に、改めて実感した。
これは、誰かに言われたからでも、流れに任せたからでもない。
自分の意思で気づいた気持ちだ。
夜空の下、二人は静かに、その気持ちを分かち合っていた。




