↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/105

第六十六話 十八歳の誕生日

 その日の朝、シアンの城には、いつもより人が多く出入りしていた。

「今日は、何かあるんですか」

 江理が尋ねると、アイリスが目を丸くした。

「エリーさん、忘れてるんですか?」

「何を?」

「今日、オジーの誕生日ですよ」

 言われて、声が上ずった。

「今日だったの!?」

「知らなかったんですか……」

 アイリスが、呆れたような、それでいて少し面白がるような顔をした。

「十八歳、ですよね」

「うん」

 その一言に、江理の中で、何かが小さく音を立てた。

 ◇

 夕方、広間には簡素な宴の用意がされていた。

 ライリー、マーサ、ミラ、そしてピーコックから駆けつけたイアンやハンナの姿もある。

「誕生日おめでとう」

 次々とかけられる祝いの言葉に、オジーは少し照れくさそうにしていた。

「今日から、十八か」

 ライリーが、杯を掲げながら言った。

「成人だ。もう、子供扱いはできんな」

「今までだって、子供扱いはやめてほしかった」

 オジーが、すかさず言い返す。

 周囲から、笑いが起こった。

 その笑いの輪の中に、江理もいた。けれど、心のどこかで、いつもと違う感覚があった。

 これまでは、どこかで安心していた。

 まだ十七歳だから。

 その一言が、決断を先延ばしにする、確かな理由になっていた。

 でも、今日からは、その理由が使えない。

 ◇

 宴が一段落した頃、江理は一人、庭へ出た。

 夜風が、頬を撫でていく。

「先生」

 いつの間にか、オジーが隣に立っていた。

「今日から、江理って呼んでいいだろ」

「もう、呼んでるでしょ」

「そうだったな」

 オジーは、少し笑った。

 その笑い方に、これまでとは違う何かがあった。子供っぽさが薄れて、それでも江理の知っているオジーのままだった。

「十八歳、おめでとう」

「ああ」

 二人の間に、しばらく沈黙が流れた。

「江理」

「うん」

「覚えてるか。十七になったばかりの頃、俺が渡した指輪のこと」

「もちろん」

「大人になっても、気持ちが変わらなかったら、もう一度言えって言ったよな」

 江理は、頷いた。

「言った」

「まだ、その日じゃない」

 オジーは、そう言った。

「今日、いきなり結婚してくれとは言わない。ちゃんと、時間をかける」

 その言葉に、江理は少し驚いた。

「……いいの?」

「江理が、ちゃんと考える時間が欲しいなら、それでいい。俺は、待つのは得意になった」

 その一言に、あの領地を回っていた日々のオジーの姿が重なった。

 失敗して、叱られて、それでも逃げずに、もう一度向き合い続けてきた姿。

「ただ」

 オジーは、続けた。

「もう、十七歳の子供だとは思わないでほしい」

「……うん」

 江理は、小さく頷いた。

「もう、そうは思ってないよ」

 その言葉に、オジーの表情が、わずかに緩んだ。

 夜空には、月が静かに浮かんでいた。

 江理は、まだ答えを出せずにいた。

 それでも、これまでのように、答えを先延ばしにする理由は、もうどこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。