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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

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第六十五話 所有物にしない国

 シアンの広間に、ライリー、マーサ、オジー、そして江理とマイミが集まっていた。

「今日は、法の話をする」

 ライリーが、地図の代わりに、一枚の白紙を卓に広げた。

「建国にあたって、決めておかなければならないことがある」

「法、ですか」

 江理が尋ねると、ライリーは頷いた。

「異世界から呼ばれた者の扱いについてだ」

 その一言に、江理とマイミは顔を見合わせた。

「江理、お前は献上物にされかけた。ルイス殿からは、側室にと望まれた」

「……そうですね」

「マイミ、お前は、正妃にと強要され、屋敷に閉じ込められた」

 マイミは、静かに頷いた。

「二人とも、本人の意思とは関係なく、誰かの所有物にされかけた。ピーコックブルーでは、それを許さない」

 ライリーは、白紙に文字を書き始めた。

「異世界より召喚された者は、いかなる身分の者であっても、本人の意思に反して婚姻、軟禁、労役を強いられることはない。召喚した者、及びこれを利用しようとした者には、相応の罰を科す」

「これを、正式な法にするんですか」

「する」

 ライリーの声に、迷いはなかった。

「うちの国には、召喚術士もいる。今後、異世界から人が呼ばれることも、ないとは言えん。その時、また同じことが起きるのを、見過ごすわけにはいかない」

 マーサが、横から静かに口を挟んだ。

「あたしも、賛成だよ。マイミの話を聞いて、余計にそう思った」

「マーサさんも聞いたんですか」

「聞いたさ。江理、あんたの話もね」

 マーサの目には、これまでにない真剣さがあった。

「力があるからって、都合よく使われていい理由にはならない。それは、この世界の人間だろうと、異世界から来た人間だろうと、同じことだ」

 オジーが、初めて口を開いた。

「俺も、賛成だ」

「お前の意見は聞いていない」

「聞いてなくても言う」

 ライリーが、少し呆れたように息子を見たが、それ以上は何も言わなかった。

「江理、マイミ。この法に、お前たちの名前を残そうと思う」

「私たちの?」

「この法が作られるきっかけとなった者として、記録に残す」

 その言葉に、江理は胸の奥が熱くなった。

「私は、それでいいんでしょうか。私一人の経験じゃないのに」

「一人の経験じゃないから、意味がある」

 ライリーは、はっきりと言った。

「お前たちが声を上げなければ、この法は生まれなかった」

 マイミが、江理の隣で小さく笑った。

「江理ちゃん、これ、けっこう大きいことだよ」

「うん」

「私たちが呼ばれたこと、無駄じゃなかったってことにもなる」

 その言葉に、江理は頷いた。

 異世界から来たことは、選んだわけではなかった。

 それでも、その経験が、これから呼ばれる誰かを守る形になる。

「よろしくお願いします」

 江理は、深く頭を下げた。

 マイミも、同じように頭を下げた。

 卓の上の白紙には、まだ書きかけの文字が並んでいる。

 それでも、そこには確かに、一つの国の意思が、静かに形になろうとしていた。

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