↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/105

第六十一話 領地の記録、浮上する過去

 シアンの一室に、古い書類の山が積まれていた。

「国境を引き直すには、まず今ある記録を洗い直す必要がある」

 ライリーがそう言って、文官たちに指示を出していた。

 人口、土地の権利、税の記録。何十年分もの書類が、シアン公爵の書庫から運び出されていた。

「気の遠くなる作業ですね」

 江理がそう漏らすと、シアン公爵が苦笑した。

「先代、先々代の頃からの記録だ。捨てるわけにもいかんのでな」

「建国に伴って、行政記録を一括で整理し直しているんです」

 シアン公爵が、付け加えるように言った。

「医療関係の資料も、その中に紛れていましてね。分けながら進めているところです」

 その日、江理は医療記録の整理を手伝うために、たまたまこの部屋に居合わせていた。マイミも一緒だった。

「江理ちゃん、こっちの束、見てみる? 古い召喚術の許可記録だって」

「召喚術?」

「うん。誰が、いつ、誰を呼んだか。全部、王宮――じゃなくて、皇宮に届け出る決まりだったみたい」

 マイミが、束の中の一枚を手に取った。

「シリルさんの一件も、こうやって記録されるのかな」

「たぶん、そうなるね」

 二人で紙をめくっていくうちに、江理はふと、一枚の紙に目を留めた。

「マイミさん、これ」

「どれ?」

「召喚術の許可申請なんだけど、途中で記録が止まってる」

 紙には、申請者の名前と、召喚の目的、そして日付が記されていた。だが、その後に続くはずの結果の欄が、空白のままだった。

「許可は下りたみたいだけど、その後どうなったか、書かれてない」

 マイミが、その紙を覗き込んだ。

 次の瞬間、マイミの手が止まった。

「……この、場所」

「辺境伯領って書いてあるね。何か気になるの?」

 江理が尋ねても、マイミはすぐには答えなかった。

 紙に記された地名を、何度も目でなぞっている。

「マイミさん?」

「ちょっと、待って」

 マイミの声が、いつもと違っていた。

 江理が声をかけようとしたその時、部屋の入り口から、エイトが顔を出した。

「こちらにおられましたか。江理殿、少しお時間を」

「今、行きます」

 江理は席を立ちながら、もう一度マイミを見た。

 マイミは、まだその紙を見つめたまま、動かずにいた。

「マイミさん、大丈夫?」

「……うん」

 短い返事だった。いつもの、からかうような軽さはどこにもなかった。

「先に行ってて。私、もう少しこれ見てから行く」

「分かった」

 部屋を出る間際、江理は振り返った。

 マイミは、紙を握りしめたまま、じっと動かずにいた。

 その日の夜、診療所の片付けをしていた江理のところに、マイミがやってきた。

「江理ちゃん、少し話してもいい?」

「うん、もちろん」

 いつもより硬い声だった。

 マイミは、椅子に腰を下ろすと、しばらく黙り込んだ。

「あの記録に書いてあった名前……」

「うん」

「……その名前、知ってる」

 その一言に、江理は息を呑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。