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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

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第五十八話 二国協力の始まり

 シアンのアトリエに、久しぶりに江理の姿があった。

「鎮痛剤、ね」

 江理の説明を聞き終えると、マーサが腕を組んだ。

「うちにも、痛み止めの薬草はいくつかある。だが、効き目にばらつきがあってね」

「そこなんです」

 持参した紙を広げる。

「量が安定していないと、効きすぎたり、逆に効かなかったりします。決まった濃さで、決まった量を作れるようにしたいんです」

「それは、あんたの世界のやり方か」

「はい。成分を一定にするための、煎じ方と保存の仕方です」

 しばらく、江理の紙を眺めている。

「面白いね。うちの知識と、あんたのやり方を合わせれば、もう少しましなものができそうだ」

 そこから数日、二人は薬草を煮出しては量り、記録しては作り直す作業を繰り返した。

「これ、効き目は強いですけど、眠気が強く出ますね」

「じゃあ、量を減らして、別の薬草で補おう」

 試行錯誤の末、ようやく一つの処方にたどり着いた頃には、江理の手に薬草の匂いが染みついている。

「これなら、月経の痛みにも、頭痛にも使えると思います」

「あとは、どれだけ広めるか、だね」

 ◇

 完成した処方を持って、江理たちは皇宮のアーサーの元を訪れた。

「これが、聞き取りから生まれた鎮痛剤か」

 興味深そうに、アーサーが江理の説明に耳を傾ける。

「効能はもちろんですが、量産できる形にすることを、一番大事にしました」

「なるほど」

 エイトが、横から補足する。

「陛下。まずは皇宮内で、試験的に使っていただければと」

「後宮の者たちから、ということか」

「はい。データを取らせていただいた方々ですので、真っ先にお返しするべきかと」

 少し考えてから、アーサーが頷いた。

「よかろう。レイモンドとも連携させる。経過は、逐一報告するように」

「ありがとうございます」

「それと」

 視線が、江理へ向く。

「うまくいけば、帝国全土へ広げることも考える。そなたたちの狙いは、村一つの話ではないのだろう」

 その一言に、少し驚いた。

「……分かりますか」

「分からいでか」

 軽く、アーサーが笑う。

「そなたのやることは、いつも一つの村では収まらん」

 ◇

 その知らせは、間を置かずシアンへも届けられた。

「帝国で、試験的に使うことが決まったって?」

 ライリーが、手紙に目を通しながら確かめる。

「はい。うまくいけば、帝国全土に広がるかもしれません」

「なら、こっちも急ぐ必要があるな」

 迷いなく、ライリーが続けた。

「ピーコックブルーでも、同じものを作れ。両方の国で使えるようにしておいた方がいい」

「両方で?」

「一方でしか使えない薬より、両方で使える薬の方が、意味がある」

 その言葉に、マーサが満足げに頷く。

「言うようになったじゃないか」

「母上に育てられたのでね」

 軽口を交わす二人を見ながら、改めて実感する。

 帝国とピーコックブルー王国。

 二つの国が、敵対するのではなく、同じ処方を分け合っている。

「これ、私たちが最初に思ってたより、ずっと大きな話になってます」

 江理がそう漏らすと、マイミが笑った。

「言ったでしょ。大きくして正解だって」

 ◇

 後日、量産の算段を相談するため、マルコがシアンを訪れた。

「鎮痛剤の件、しかと承りました」

 てきぱきと手帳に書き込みながら、マルコがふと顔を上げる。

「ところで、先生がいつも首に下げておられるそれは、何でございましょう」

「これ?」

 江理は、聴診器に手をやった。

「聴診器っていって、体の中の音を聞く道具。心臓の音とか、呼吸の音とか」

「異世界から、お持ちになったのですか」

「うん。召喚されたとき、たまたま身につけてたから」

 マルコの目が、商人らしく光った。

「それは、他の医師の方々もお使いになれば、診療の質が上がるのでは」

「作れそう?」

「集音の部分は、金属を薄く打てば近いものができましょう。管の部分は、少々知恵を絞らねばなりませんが」

 マルコは、江理の聴診器を、矯めつ眇めつ眺めた。

「ただ、これほど曲げやすく、それでいて千切れない素材となると、すぐには思いつきません」

「私の世界だと、『ゴム』って呼ばれてる素材なんだけど」

 江理は、そう付け加えた。

「木の樹液から作るものもあったはずだから、似たようなものが、こっちにもあるかもしれない」

「ゴム、でございますか」

 マルコは、その響きを確かめるように呟いた。

「樹液を煮詰めたもので、近い弾力が出せるという話を、聞いたことがございます。試してみる価値はありそうです」

「できたら、教えてほしい」

 江理は、少し期待を込めてそう言った。

「エイトさんや、レイモンド先生にも使ってもらえたら、診療がもっと正確になると思う」

「かしこまりました」

 マルコは、深く頭を下げた。

「鎮痛剤と合わせて、こちらも試作に取りかかりましょう」

 ◇

 その言葉通り、鎮痛剤の処方は、二つの国を静かにつなぐ小さな橋になろうとしている。

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