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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第4章 いつのまにか、国づくりまで始まっちゃった。

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第五十二話 王太子妃

 地図を囲んだまま、話は続いていた。

「治安についてはこうする」

 ライリーが、要点を一つずつ挙げていく。

 山賊や食い詰め者を、ただ討伐するだけでなく、志願する者は傭兵や治安隊として受け入れること。街道を整備し、宿場を置くこと。土地の実情を知るため、まず人口と暮らしぶりを調べること。

 イアンやリアムたちは、時折質問を挟みながら、真剣な顔で聞いていた。

「それと」

 ライリーの視線が、江理へ向いた。

「医療については、エリー先生に頼む」

「私、ですか」

「ピーコックの診療所を軸に、この国の医療を作ってほしい。王都の病院とも、繋がりを持たせて」

 背筋が伸びた。

「精一杯、やらせていただきます」

「頼りにしている」

 話が一段落したところで、扉の外から声がした。

「失礼します」

 入ってきたのは、アイリスだった。

「アイリス、どうしたの」

「父が心配で。様子を見に来ちゃいました」

 リアムが、驚いたように振り返る。

「アイリス、お前まで」

「だって、急に呼び出されたって聞いたら、心配になるじゃないですか」

 悪びれもせず、アイリスは部屋の隅に控えた。

 その時、それまで黙っていたオジーが、不意に口を開いた。

「ついでだ。皆にも言っておく」

「オスカー?」

 ライリーが眉を上げる。

「江理は、俺の婚約者だ」

 部屋の空気が、一瞬で固まった。

「だから、いずれ王太子妃になる」

「……ちょっと待って!」

 声が、勝手に出ていた。

「その話、まだ全然決まってないですよね!?」

「決まってる」

「決まってません!」

 イアンとリアムが、口を半開きにして江理とオジーを交互に見ている。カナリ村長とアガット村長に至っては、完全に固まっていた。

「王太子妃って、そんな、私、まだ何も」

「指輪、返してないだろう」

「それは、預かってるだけで」

「同じことだ」

 押し問答になりかけたところで、部屋の隅から、小さな笑い声が聞こえた。

「ふふふ……」

 アイリスだった。口元を押さえながら、実に楽しそうにこちらを見ている。

「アイリス、笑い事じゃないんだけど」

「いえ、なんだか、エリーさんらしいなと思って」

「どこが!」

「だって、周りは大真面目に王太子妃だって言ってるのに、エリーさんだけ『いや、決まってません』って戦ってるんですもの」

 その言葉に、部屋の空気が、わずかに緩んだ。

 マーサが、愉快そうに肩を揺らしている。

「まあ、江理の言う通り、まだ正式な話じゃない。今日のところは、その辺にしておきな」

「マーサさん、助かります」

「その代わり」

 マーサが、にやりと笑った。

「指輪は、ちゃんと持っておくんだよ」

「……はい」

 結局、そこは譲れないらしかった。

 イアンが、隣のリアムに小声で話しかけているのが聞こえた。

「……エリー先生と、オスカー様が」

「まさか、そんな話になっていたとは」

 二人とも、まだ状況を飲み込めていない様子だった。

 ライリーが、軽く咳払いをして、話を本題へ戻した。

「今日は、これくらいにしておく。夕食は、しばらくこちらで共にしてもらう」

「こちらで、ですか」

「役職の説明も、まだ途中だ。何日か、シアンに留まってもらうことになる」

 イアンたちは、覚悟を決めたように頷いた。

 江理は、隣に立つオジーを、少し睨みつけた。

「あとで話があります」

「聞く」

「絶対ですよ」

「聞くって言ってる」

 その様子を、アイリスがまだ、笑いを堪えながら眺めていた。

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