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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第3章 攫われた先の皇宮で、まさかの主治医になっちゃった。

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第五十話 帰ろう

 出発の前日、江理はマルコと最後の打ち合わせをしていた。

「資金については、ご心配なく」

 マルコが、帳面を開いて見せる。

「先生が考案された医療用品、あれから帝都でも飛ぶように売れております。今の売り上げだけで、病院の当面の運営は賄えるかと」

「そんなに、ですか」

「三角巾一つとっても、これだけの数です」

 並んだ数字に、江理は言葉を失いかけた。

「もちろん、皇家からも支援をいただけることになりました。土地の提供、建物の改装費。エリー先生の村の診療所についても、話を通しておきました」

「ピーコック村にもですか?」

「はい。帝国の病院と、村の診療所、両方が育てば、この国の医療そのものが変わっていきます。陛下も、そのように仰っていました」

 江理は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「お礼を言うのは、こちらです。先生の一言から、ここまで大きな話になりました」

 マルコは、そう言って笑った。

 ◇

 出発の朝、宮殿の門前には、多くの人が集まっていた。

「エリー先生」

 リーゼルが、目を潤ませて頭を下げる。

「お世話になりました。またいつか、必ず」

「うん。リーゼルさんも、元気で」

 レイモンドも、静かに一礼した。

「薬草の話、また聞かせていただきたい」

「今度は、こちらから手紙を書きます」

 サラとルイスも、見送りに来ていた。セレネも、穏やかな笑みでこちらを見ている。

 一頭一頭、旅支度を終えた馬が並ぶ中、江理はふと、見覚えのある姿を見つけた。

「シリルさん?」

 少し離れた場所に、灰色のローブの男が立っていた。

「先生。旅立つと聞いてな」

「謹慎中じゃ」

「帝都から出るのは構わん。それに」

 シリルは、少し照れくさそうに続けた。

「せめてもの恩返しがしたくてな」

「恩返し?」

「ピーコック村まで、送ってやる」

「え?」

「召喚術は禁じられたが、転移門は別の術だ。ルールには触れん」

 シリルは、杖を取り出し、地面に円を描き始めた。

「馬車で何日もかけて帰るより、こっちの方が早いだろう」

「本当にいいんですか?」

「先生には、世話になりっぱなしだったからな。これくらいは、させてくれ」

 その言葉に、江理は目頭が熱くなった。

「ありがとうございます、シリルさん」

「礼はいい。……達者でな」

 描き終えた円が、淡く光り始める。

 ライリー、マーサ、オジー、エイト、マイミ、そして江理が、順に円の中へ入っていった。

「じゃあ、また」

 江理が振り返ると、シリルが小さく手を上げた。

「今度は、俺が村に遊びに行く。歓迎しろよ」

「いつでもどうぞ」

 光が、視界を包んだ。


 ◇


 次に目を開けたとき、そこにあったのは、見慣れた景色だった。

 診療所の前の道。畑の緑。遠くに見える村長の家。

「……帰ってきた」

 誰かが、まず声を上げた。

「エリー先生!」

 診療所から飛び出してきたのは、アイリスだった。

「アイリス!」

 駆け寄ってくるアイリスを、江理は両手で受け止めた。

「おかえりなさい!」

「ただいま」

 その声に、涙が滲んだ。

 フィンも、イアンも、ハンナも、次々と外へ出てくる。

「エリー先生、ご無事で」

 イアンの声には、深い安堵があった。

 窓の隙間から、光の粒がいくつも飛び出してくる。

『エリー! おかえり!』

『みんな、かえってきた!』

 ノアたちが、歓声を上げながら村の上を飛び回った。

 江理は、その光景を、ゆっくりと見渡した。

 帝都での日々も、確かに大切だった。けれど、この場所に立った瞬間に湧き上がってくるものは、まったく別のものだった。

「ただいま」

 もう一度、口にする。

 ここが、帰る場所だった。

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