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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第3章 攫われた先の皇宮で、まさかの主治医になっちゃった。

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第四十九話 王宮を発つ前に

「本日は、皆に集まってもらった」

 謁見の間に、アーサー陛下の声が響いた。

 江理の隣には、ライリー、マーサ、オジー。その後ろにエイトとマイミ、少し離れてマルコの姿もある。壇上には、セレネ皇后、そしてルイスとサラも並んでいた。

「まず、新たな国の件だ」

 陛下が続けた。

「領土の割譲、境の取り決め、移住の手筈。細かな詰めはまだ残っているが、大筋は固まった。近く、正式な文書を交わす」

 ライリーが、静かに頭を下げた。

「陛下のご配慮に、感謝する」

「感謝するのは、こちらの方だ」

 陛下は、そう言って、ライリーとオジーを見た。

「この国が抱えてきた古い棘を、そなたたちは静かに引き抜いてくれた。憎しみ合う道を選ばずに」

 オジーは、何も言わずに頭を下げた。

 陛下の視線が、次に江理へ向いた。

「エリー殿」

「はい」

「病院の件も、マルコより聞いている。位を問わず診る、という考えだそうだな」

「はい。皆さんに助けていただいて、形になりつつあります」

「王家としても、支援を惜しまない。必要な許可、土地、すべて用意しよう」

 江理は、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 その時、サラが一歩前へ出た。

「エリー先生」

「サラ様」

「陛下の場を借りて、改めてお礼を申し上げたく」

 サラは、まだ膨らみの目立たないお腹に、そっと手を添えた。

「あなたがいなければ、わたくしは今も、暗闇の中にいたと思います」

「サラ様の頑張りです。私はただ、聞いただけですから」

「聞いてくださったことが、何よりの支えでした」

 隣で、ルイスも頭を下げた。

「私からも、礼を言わせてほしい。あなたのおかげで、私は妻に、正直に向き合えるようになった」

「殿下がちゃんと変わろうとしたからです」

「それも、あなたのおかげだ」

 江理は、少し困ったように笑った。

 セレネが、その様子を見て、柔らかく微笑む。

「エリー殿。あなたが来てくれてから、後宮の空気が、随分と変わりました」

「王妃様……」

「誰にも言えなかったことを、話せる場所ができた。それだけで、皆、随分と楽になったのです」

 セレネは、深く頭を下げた。

「本当に、感謝します」

 江理は、慌てて頭を下げ返した。

「頭を上げてください、王妃様」

「あなたには、それだけのことをしてもらいました」

 広間に、静かな空気が満ちていた。

 陛下が、最後に口を開いた。

「エリー殿。長く、この帝国に留めてしまった」

「いえ」

「そなたの村と、城塞に、これ以上迷惑はかけられぬ。……帰るがいい」

 その一言に、顔が上がった。

「本当に、ですか」

「ああ。ガルド卿の件も片づいた。国の件も、大筋は決まった。あとは、そなたがいなくとも進められる」

 江理は、隣に立つライリーを見た。

 ライリーが、小さく頷く。

「聞いた通りだ、先生」

 オジーの顔にも、隠しきれない笑みが浮かんでいた。

「本当に、帰れるんだ」

 その声は、どこか子どもっぽく弾んでいた。

 江理は、皆の顔を、一人ずつ見渡した。

 ここへ来たばかりの頃は、想像もしていなかった光景だった。

「ありがとうございます、陛下」

 深く頭を下げながら、江理の胸には、確かな喜びが広がっていた。

 帰る場所へ、帰れる。

 それだけのことが、こんなにも嬉しい。

 謁見の間を出る道すがら、マイミが江理の隣に並んだ。

「江理ちゃん、お疲れ様」

「マイミさんこそ。ずっと付き合ってくれて」

「私は好きでやってたから」

 マイミは、いたずらっぽく笑った。

「それより、王宮の暮らしはどうだった? ちょっとは名残惜しい?」

「……少しだけ」

 江理は、正直にそう答えた。

 サラの笑顔。セレネの穏やかな声。レイモンドとの薬談議。手放しがたいものは、確かにあった。

「でも、帰りたい気持ちの方が、ずっと大きいです」

「だよね」

 マイミが頷く。

 後ろでは、オジーが早くも荷物をまとめる算段を、マーサに話しかけていた。ライリーは、エイトと何か静かに言葉を交わしている。

 王宮での日々は、終わった。

 けれど、ここで結んだ縁が消えるわけではないと、江理は知っていた。

 窓の外に、抜けるような青空が広がっていた。

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