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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第3章 攫われた先の皇宮で、まさかの主治医になっちゃった。

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第四十三話 召喚士の罪

 その知らせが届いたのは、ガルド卿の裁きから数日後のことだった。

「シリル、という召喚士に、心当たりはあるか」

 皇帝に呼ばれ、江理は息を呑んだ。

「シリルさんが、どうかしたんですか」

「無許可の異界召喚の疑いで、帝都への出頭を命じられた」

 その言葉に、血の気が引いた。

「無許可、って……」

「本来、異界召喚は帝国の許可を得て行うものだ。術を行使する召喚士には、事前に申請する義務がある。シリルという者は、それを得ずに術を行使したと聞いている」

「でも、召喚を頼んだのはイアンさんです」

「イアン村長からも事情は聞いている。だが、彼はシリルが必要な許可を得ているものと思っていたそうだ。召喚術の詳細についても、十分な説明を受けていなかった」

「じゃあ、イアンさんは……」

「現時点で罪に問う理由はない。許可を得る責任は、術を行使する召喚士にある。もっとも、村長という立場にありながら、術者の資格や許可の有無を確かめず依頼したことについては、厳重に注意してある」

 江理は、あの日の記憶をたどった。

 目を覚ましたら、見知らぬ天井があった。

 傍らには初老の男と、灰色のローブを着た男。

 あれが、シリルだった。

「陛下。それは……私のことですか」

「そうだ。そなたを、この世界へ呼んだ張本人だ」

 しばらく、言葉が出てこなかった。

 あの日、江理は召喚された当事者として、シリルに散々文句を言った。責任を取れと詰め寄り、紙や鍋や酒を要求し続けた。

 それでも。

 あの男が処罰されることまでは、想像していなかった。

「罪は、どのくらい重いんですか」

「無許可召喚は重罪だ。召喚された者の扱い次第では、極刑もあり得る」

 江理の背筋が冷えた。

「でも、シリルさんは私を粗末に扱ったりしませんでした。イアンさんから報酬をもらって召喚したのは知っています。でも、その後は私のために色々と動いてくれました」

「そなたの証言は聞こう」

 皇帝が静かに言う。

「だが、罪そのものは消えぬ。許可なく人を異界から呼び寄せたことは事実だ」

 江理は拳を握った。

「……会わせてもらえますか」

「今は審問の最中だ」

「終わったら」

 少し間を置いて、皇帝が頷いた。

「よかろう」

 ◇

 通されたのは、皇宮の奥にある小さな部屋だった。

 格子越しに、見慣れた顔があった。

 少し痩せたように見える。灰色のローブは、あの日より薄汚れていた。

「シリルさん」

「……先生」

 驚いたように、シリルが顔を上げる。

「なんで、ここに」

「話を聞きました。無許可の召喚だったって」

 シリルが目を逸らす。

「そうだ」

「隠してたんですか、ずっと」

「隠してたわけじゃない。村長からの依頼で、金をもらって術を使った。それだけだ」

「知ってます。あの時、聞きましたから」

「……ああ」

 力なく、シリルが笑った。

「辺境の村で一度術を使うだけだ。見つかりはしないと思ってた」

 江理は眉を寄せた。

「無許可だって、分かってたんですか」

「分かってた」

 シリルは短く答えた。

「だから、言い訳はできない」

「シリルさん……」

「先生には、迷惑ばかりかけたな。呼んでおいて、帰す方法も知らないなんて言って」

「それは、もう終わった話です」

 江理は格子に手をかけた。

「今、聞きたいのはそれじゃありません」

「じゃあ、何だ」

「極刑になるかもしれないって、本当ですか」

 シリルの表情が揺れた。

「……そういう話も、出ているらしい」

「そんな」

「仕方ない。ルールを破ったのは俺だ」

 その諦めた声に、江理は苛立ちを覚えた。

「シリルさん、私に文句を言われた時、ちゃんと謝りましたよね」

「言ったな」

「紙も、鍋も、酒も、全部用意してくれましたよね」

「……したな」

「エイト先生のことも、繋いでくれました」

「そうだったな」

「なのに、命まで取られていいと思ってるんですか」

 返事はなかった。

「私は、思ってません」

 江理は、はっきりと言った。

「あなたがルールを破ったのは事実です。それをなかったことにするつもりはありません。でも、あなたは私を粗末に扱いませんでした。それどころか、召喚した後もずっと私のために動いてくれました」

「先生……」

「証言します。陛下にも、必要ならどこにでも」

 しばらく、シリルは黙っていた。

 それから、小さく笑った。

「先生は、変わらないな」

「何がですか」

「昔から、こっちが下手に出ても、上から目線でも、態度が変わらない。ただ、必要なことをする」

「褒めてます? それ」

「褒めてる」

 格子の向こうで、シリルが肩をすくめた。

「けど、先生。俺のために証言して、あんたに何か不利なことが起きたりしないか」

「そんなの、やってみないと分かりません」

「先生らしいな、それも」

「よく言われます」

 江理は格子越しに、シリルを見つめた。

「私を呼んだのはシリルさんでした。でも、その後、私がこの世界で生きていくために色んな人へ繋いでくれたのも、シリルさんです」

「そんな大層なもんじゃ」

「大層なんです」

 きっぱりと言い切った。

「だから、勝手に諦めないでください」

 しばらく、シリルは江理を見つめていた。

 それから、深く頭を下げた。

「……すまなかった。そして、ありがとう」

「まだ何も終わってません」

 江理は踵を返した。

「これから、ちゃんと戦います」

 部屋を出る。

 シリルが犯した罪を、なかったことにはできない。

 けれど、罪を犯したという事実だけで、その人間のすべてが決まるわけでもない。

 少なくとも江理は、召喚されたあの日から今日までのシリルを知っている。

 ならば、自分にできることは一つだった。

 江理は皇帝に会うため、再び長い廊下を歩き始めた。

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