↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第3章 攫われた先の皇宮で、まさかの主治医になっちゃった。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/105

第四十一話 再会

「エリー様、お客様です」

 リーゼルの声が、いつもより弾んでいた。

「客?」

「その……お名前を伺う前に、飛び込んでこられまして」

 言い終わるより早く、扉が開いた。

「江理!」

 オジーだった。土埃のついた服のまま、まっすぐこちらへ駆けてくる。

「オジー!?」

 江理が立ち上がった次の瞬間、強く抱きしめられた。

「オジー……?」

「……よかった」

 耳元で聞こえた声が、震えていた。

 この十日間、どれほど自分を案じてくれていたのかが伝わってくる。江理は、その背中に手を回し、落ち着かせるように軽く叩いた。

「ごめんね。心配かけたよね」

「……謝るな」

 やがてオジーが我に返ったように腕を解き、気まずそうに目を逸らした。

「怪我は。何もされてないか」

「大丈夫。何もされてないよ」

「本当に?」

「本当に」

 念を押すように、オジーは江理の顔をもう一度だけ見て、それから深く息を吐いた。

「みんな、ここまで?」

「ああ」

 オジーの後ろから、ライリーが現れた。

「先生。無事で何よりだ」

「ライリーさん」

 その後ろに、マーサ、そしてエイトとマイミの姿もある。

 狭い部屋に、一気に人が溢れた。

 江理は皆の顔を、順番に見た。心配をかけたことが、今更のように申し訳なくなる。

「すみません、私が油断してたばっかりに」

「油断じゃない」

 オジーが強く言った。

「江理は、患者を助けようとしただけだろ」

「でも」

「謝るな」

 その口調に、江理は言葉を止めた。

 マーサが部屋を見回して、鼻を鳴らす。

「随分立派な部屋に住まわせてもらってるじゃないか」

「マーサさん……」

 軽口だと分かっていても、江理の目には涙がにじんだ。

 その時、扉の外から足音が近づいてきた。

「エリー殿、何事――」

 レイモンドだった。騒ぎを聞きつけて駆けつけたらしい。

 部屋に入った瞬間、レイモンドの足が止まった。

 視線の先には、マーサがいた。

「……マーサ、様?」

 その呼び方に、江理は目を瞬いた。

「様?」

 誰も答えない。

 マーサが、ゆっくりとレイモンドを見た。

「久しいね。レイモンド」

「マーサ様……本当に、マーサ様なのですか」

 レイモンドの声が、明らかに震えていた。

「昔の話をするには、まだ早いだろう」

 マーサは軽く手を振って、それきり取り合わなかった。

 江理は、その様子を黙って見ていた。

 あの日、レイモンドが「昔、皇宮にも一人、おられました」と言葉を濁したことを思い出す。

 ――やっぱり、同じ人だったんだ。

 だとすれば、「様」と呼ばれる理由は何なのか。

 混乱している江理をよそに、レイモンドはエイトへ視線を移した。

「……エイト、殿」

「久しいな、レイモンド」

「あなたも、まさか」

「話は、また後で」

 エイトの返しは、いつも通り落ち着いていた。だが、レイモンドは明らかに動揺していた。

「エイトさんも、レイモンド先生と知り合いだったんですね」

「昔、同じ職場でしたので」

「筆頭級同士だったと聞きました」

 江理がそう言うと、エイトが初めて、少し困ったような顔をした。

「江理殿。それは」

「レイモンド先生に聞きました。エイトさんが、この皇宮で一番の名医だったって」

「一番、とは大袈裟です」

「大袈裟ではありません」

 横からレイモンドが口を挟んだ。

「エイト殿は、皇族の診療を一手に担っていた筆頭医でした。彼が辞められてから、後宮の医療は随分と困ったものです」

「エイトさん……」

 江理は、改めてエイトを見た。

 いつも静かに、村の診療所で薬草の話をしていた人。テオに教え、江理にも助言をくれた人。それが、皇族専属の筆頭医だったなんて。

「知らなかった。エイトさん、そんなにすごい人だったんですね」

「江理殿の知識にも、いつも驚かされておりました。お互い様です」

 エイトはそう言って、話をそれ以上広げなかった。

 マイミが横で笑っている。

「この人、そういうこと全然言わないのよ。私も後から知ったくらい」

「マイミさんも大概ですけどね」

「私は関係ないでしょ」

「関係あるでしょう」

 軽口が続く中、江理はふと、レイモンドがまだマーサを見つめたままなのに気づいた。

「レイモンド先生?」

「あ……失礼」

 我に返ったように、レイモンドが姿勢を正す。

「陛下に、お知らせせねば」

「アーサー陛下に?」

「ライリー殿が来られたこと、そしてマーサ様のことも」

 その言葉に、部屋の空気が、少しだけ張り詰めた。

「陛下も、ご存じなんですね」

 江理がそう聞くと、ライリーが短く頷いた。

「知っている」

「でも、私には教えてくれないんですね」

「そのうち分かる」

「それ、みんな言いますよね」

 江理が呆れたように言うと、オジーが横で小さく笑った。

「本当だな」

 その笑顔に、ようやくいつもの調子が戻ってくる。

「先生」

 ライリーが江理に向き直った。

「無事な顔を見られて、よかった」

 短い一言だったが、その目には、これまで見たことのないほどの安堵があった。

「心配、かけてすみませんでした」

「詫びるのは、俺たちの方だ」

 ライリーは静かに言った。

「守り切れなかった」

「そんな」

「これからは違う」

 その一言に、迷いはなかった。

 江理は、集まった顔ぶれを見渡した。

 ライリー、マーサ、オジー、エイト、マイミ。

 誰か一人が欠けていたら、この部屋はここまで賑やかにならなかった。

 ――帰りたい場所の人たちが、ここまで来てくれた。

 その事実だけで、胸の奥が熱くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。