4・再会
山の中で心細く感じるが、殺された村の人や両親や楓の事を考えると
逃げようとは思わなかった。
「いっそ、このまま喰われて死んだら楽になるかしら?
いえ、樹がひとりぼっちになってしまう。わたしはどうしたいんだろう…」
考え事をしながら歩き続けていると、朽ち果てた神社の跡に着いた。
「ここだわ。みんなが言っていた神社」
仲間は後ろから来ているはず。 鬼は出るだろうか。
崩れた柱の端に座って、事が起こるのを待つ此花に
「何してる?」と声がかかった。
「霧島…」
白い鬼は「また会ったね」と紫の花を差し出した。
「深山嫁菜」
「そういう名前なのか。綺麗だったから」
「山の主なのに、知らないの?」
「花の名を覚えるのは得意じゃないんだ。でも綺麗なのはわかる」
此花は花の香をかいで目を閉じた。
今なら聞ける気がした。怒らせて、喰われてもかまわない。
「…霧島は羅刹なの?」
「え?なぜそんな事を聞く?まさか。違うよ」
「みんなが襲われた時、霧島は口の周りに血を付けていた。
だから、人を襲ったんだって…」
「ウサギを食べていたんだけど、悲鳴が聞こえたから見に行ったら
此花が仲間らしきヤツと逃げるところだった。それだけだ」
此花の顔から緊張が消えた。
「ウサギを…生で?」
「火を起こせる場所がなかったから。やたら火を使って山火事になると困る」
「ん…」
「此花はなぜこんな山奥にいるんだ?」
「人喰いの鬼をおびき寄せるために」
「囮なのか。なんて危ない事をさせるんだ」
「わたしが囮になるって言ったの」
霧島はしばらく目を閉じて何かを探っていた。
「他の鬼の気配はないから、今のところヤツはいないよ」
「そうなの?」
「仲間にそう伝えるとい…」
ドスッ ドスッドスッ
此花を抱えて、飛んできた矢を避けた。
「此花ごと殺す気か!?」霧島が地面と木に当たった矢を見て呆れて言った。
「仲間じゃないのか?」
「此花、離れろ」仲間の声が聞こえた。
「お願いやめて。違う。違う。人喰いじゃない」
仲間に向かって叫ぶが、誰も聞いてくれない。
続けざまに飛んできた矢をよけるために、霧島は此花を抱き上げて
木から木へ飛んで安全な場所まで運んだ。
「奴らは何を考えているんだ?大丈夫か?怪我はないか?」
「はい、何とも」
「あ…。しまった。安全な場所と思って、遠くまで来てしまった。
ここはどこだ?」
周りを見ると高い木に囲まれてまったく様子がわからない。
「よし」
此花を抱いて霧島は木の上まで飛んだ。
「わ…。なんて眺め」
木の上から、あたり一面の景色が見て取れた。村がはるか彼方に小さく見える。
「きゃっ」
初めてその高さに気が付いて、霧島にしがみついた。
「大丈夫。落とさないよ」
霧島がしっかり抱きしめた。
そっと顔を上げると、雲が流れていくのが見えた。
空が赤く染まり始めている。
「こんなに美しい夕日は初めて」
「では日が落ちるまで見ていようか」
日没で月と夕星が出るまで、ふたりはそうしていた。
読んでくださってありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
◇解説◇
夕星…宵の明星・金星のこと




