3・羅刹
「きゃああああああ!」 村に悲鳴が響く。
「人殺しです。末裔さま方、お助けを」
村からの連絡に屋敷から何人かのアヤカシ退治の者が駆けつけると
皮を剥がれて無残に殺された村人が畑の中に転がっていた。
「人喰い…鬼?」
「伝説の人喰い羅刹か?」
買い出しに出ていた此花も事件を知った。
「怖いよう」
通りかかった少女が此花を見上げて怯えている。
「大丈夫。お屋敷の末裔の人たちがきっと退治してくれる。
だから心配しないで」
「うん」
少女は頷いてニコリと笑った。
「姉さま」
此花を心配した樹が、買い物を手伝うと追いかけてきた。
「わたしは大丈夫。それよりもこの子を送ってあげて」
「わかった。家はどこ?」
「あっち」
少女を送る弟を見送って、此花はその日の夕食の買い出しを続けた。
*
「西から来た霧島さまの村で、羅刹という鬼が人を喰ったと聞きました。
それがこの近くにいるらしいです」
長の屋敷で人喰いの鬼の説明をする此花に
「人喰い鬼か。どうする?」
「此花を囮にでもしたら?」と、楓が提案するが
さすがの一族の者たちも迷った。
「役に立たないんだもの。このくらいはしてもらってもいいんじゃない?
本当に喰わせるわけではないし」
「それもそうか。おびき寄せて討てばいい。いいな、此花」
「やっと役に立つ時がきたじゃない」
楓に言われて、言う事を聞くしかないと思う此花だった。
*
山には熊が出て、人喰い鬼も出る。
「でももしかしたら、また霧島に会えるかもしれない」
それだけが、此花を山に向かわせる力となった。
山道を歩く此花の後を一族の者が数人、隠れながら付いてきていた。
…やはりあの家から離れると身体が楽になる。
身体の傷を見ながら、わたしはあの家や一族の人たちが嫌なんだろうか。
離れると何ともなくなるなんて。
霧島と出会ったあたりに来た時に「ぎゃああああ…」と悲鳴が聞こえた。
鳥が飛び立つ音に枝が揺れる音。やがて静かになった。
「みんな…どうしたの?何があったの?」
悲鳴が聞こえた方へ行くと、木の上から声がした。
「お前、霧島と名乗る鬼と一緒にいた女だろう?いい事を教えてやる。
あいつが人喰いの羅刹。気をつけろ。お前もやられるぞ。うひゃひゃ」
ガサササ
何かが走るような音がして気配が消えた。
…と思ったら、着物に血を付けた霧島が現れた。
「此花か。 何をしてる?」
口の周りには血が付いている。
いっぺんにいろいろな事が頭に浮かんだ。
霧島が羅刹? こんなに怖くないのに? 私を助けてくれたのに?
でもあの口…何か生き物を食べたんだ…。
「此花っ」と、生き残った仲間が動けない此花を抱えて走り去る。
途中で無残に殺された仲間の遺体が転がっているのを見た。
これをあの人がやったの?
とても信じる事ができなかった。信じたくなかった。
*
「姉さま」と、樹が此花に抱きついた。「無事でよかった」
「仲間が何人かやられた。あっという間だったが、血の付いた口をした鬼を見た。
奴がきっと羅刹だ。 若者の姿をしていた。」
ドキドキしながら此花は話しを聞いていたが、否定はできなかった。
怪我人を楓が癒している。
「ありがとう。さすが『癒しの手』の楓だ」
「相手は手ごわいな。刀と弓矢と、後方に楓をはじめ『癒しの手』を配置して…
どこで迎え討つかだ」
「やはり山か。里に来られると村人に被害がでる可能性がある」
「山の中に潰れた神社があるな。そこはどうだろう?」
一族の相談が続く。
動けなかった。 あの時…蜘蛛が出た時と同じだ。
此花は自分が情けなかった。 仲間が命がけでやろうとしているのに
わたしは何もできない。
「また、わたしを囮に…してください」
そういうのが精いっぱいだった。
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