第1章 モテと嫉妬のミクロ戦争 ─好意のゆらぎ ④
マンガはこちら
https://note.com/lush_plover1590/n/na2df6904b1b7
その後も、学生たちとの面談を行っていく。何人かとの面談を終えて、一息ついたとき、凛がふと研究室内の共用テーブルの上のものに気づいた。
「これ、誰かが持ってきたお土産とかですか?」
そこには、バラバラに開封された地方土産のクッキーがいくつも並んでいた。
先ほど面談を終えた四年生の女子、清田つぐみが笑って答えた。
「あ、それ宮田さんの。どれを誰が取るか見たいって、全部並べてたんですよ」
「え、何かの実験ですか?」
「本人は『なんとなく置いといた』って言ってましたけど、女子の好みとか性格が出るらしくて」
柳澤が反応する。
「ふうん。それ、試されているみたいで、どんな気持ちになるんだろうか」
清田の応答はこうだ。
「いやいや、宮田さんの場合、いやらしい感じがしなくて、なんか許せちゃうんですよ」
実は何人かの女子学生との面談を通じて、気づいたことがあった。研究室内の人間関係を聞くと、大槻の話も出てくるのだが宮田という男子のことも、ほぼ全員がさりげなく話題に挙げていたのだった。
もちろん、あからさまに好意を示す雰囲気ではないのだが、研究室内の人間関係ならば、宮田のことに言及しないと話が終わらない、というように。
そのとき、物腰の柔らかそうなこざっぱりした男子学生が室内に入ってきた。挨拶を交わすと、ちょうど話題にしていた修士一年の宮田敬だった。挨拶をした流れから、宮田と面談をすることになった。
大槻とは違い見た目は地味だが、誰にでも柔らかく接する好青年。研究テーマの説明に出てきた実験データの整理も丁寧で、言葉遣いも落ち着いている。
そして話は人間関係の話題に移った。女子学生が宮田のことに言及していた、と少し冷やかし気味に言ってみる。
「僕、誰かひとりに仲良くしてるって感じじゃなくて、みんなに同じように接してるつもりなんですよね。そういえばこの前、女子に『優しいんだか距離あるんだかわからない』って言われたんですけど……僕そんな感じですかね。むしろ僕、鈍感なのかなあ」
話していて凛は感じた。
(この人、周りからどう思われているか本当にわかっていない…いや、わかっていないフリをしてるだけ…なのか。本当にわかっていない…?)
宮田は面談後、研究の用事が外部であるとのことで研究室を出て行った。柳澤と凛とで思わず感想戦のような話になった。
「面白いね、あの宮田くん」
「ですね。女子たちはほぼ全員が宮田くんの話題に触れていました。なんとなく褒める感じで。でもちょっと含みがあるような……」
「許せるんだけど、ずるい、とか、あの感じは反則とか、そういうことだろ?」
横で聞いていた清田が話に入ってきた。
「昨日、私に『今日の髪型いいですね』って言ってたけど、一昨日は別の子に 『シャツが似合ってますね』って言ったりするんですよ」
「みんなを褒めているんですね」
「たぶん悪気ないんですよ。自然に出ちゃってる感じで。あと、宮田さんって、アプリの既読つくのに、返事がちょっと遅いことが多くて」
清田がスマホでアプリの履歴画面をちらりと見せてくる。
「既読はすぐつくんですよ。で、時間差でやさしい返事がくるんです」
「……それ、逆に気になるやつだ」
柳澤が思わず口に出す。凛は笑って、「無意識でやってるなら天才ですよね」と言った。
柳澤は内心でつぶやいた。
(戦略的曖昧さ、の体現者だな)
「最初に目を引いたのは大槻くんだったけど、なんか……研究室の内側では、むしろ宮田くんのほうが女子の注目を集めているのかもしれないですね」
「そうだな。モテの質が違う。あいつは、気づかれずに、いや自分でも気づかずに空気を動かすタイプだ」




