第1章 モテと嫉妬のミクロ戦争 ─好意のゆらぎ ③
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件の研究室は、学際情報学センターの三階にあった。
出迎えたのは大学院生の一人、修士課程二年の大槻海翔。身長は百八十センチメートル近く、整った顔立ちにノーカラーシャツと細身のパンツ。都会的で洗練された印象を与える青年だった。
「柳澤さんと三島さんですね。田貝先生から聞いています。どうぞ、こちらへ」
礼儀正しいが、それでいて物腰がスムーズ、ちょうど良い距離感だ。柳澤は、ひと目で彼の強者性を察知した。
(このタイプは、視線の集め方を知っている)
研究室のメンバーは、四年生、修士課程二年間の各学年で五~六名いて、博士課程にも数名いる上にポスドク、企業からの派遣員もいる。全部で三十名近くになり、なかなかの大所帯と言って良い。
フィールドワークに出ていたり、学会、研究会などの学外活動に出ているメンバーもいるので、まずは研究室内に在席しているメンバーと面談を始めることにした。
建前上、学生たちには、柳澤と凛は研究内容の関係性の整理を行うコンサルタントと伝わっている。その趣旨に沿って、学生たちそれぞれの研究内容のヒアリングを行っていく。
それに付随して、各人同士の関係性を聞いていった。メールや学内チーミングアプリ、プライベートのSNSも整理範囲であることを説明して、場合によってはアプリのグループに入れてもらったりした。
最初に話を聞いたのは大槻である。
「そうすね。この研究は人間の集団行動のダイナミクスに数理モデルを取り入れているんですよ」
年の近い凛はともかく、柳澤に対してもすぐに砕けた感じの接し方になり、コミュ力の高さを感じさせた。
研究室内の人間関係に話がおよぶと、少しそわそわした様子になる。研究室内の複数の女子と感情的なつながりがあり、やや話しにくそうだ。
「いや、メッセージのやり取りをしていると、向こうがなんかアピールっつうか、熱がこもってきたりするんすよ」
こんな調子で、あら、おモテになるのね、という感じである。事前に教授からの情報にあった、最近研究室に来ていない女子学生、修士一年の木下佳奈のこともさりげなく聞いてみた。
「佳奈か。あいつのことは、そうですね。研究テーマが少し離れてることもあって、普段はそんなにやり取りはないかな。でも、そうだな。あ、いや、大したことないし、俺から言うのもアレだから」
柳澤と凛は、大槻の不自然さが気になることをお互いの顔を見て確認した。だが、大槻は他の女子に対しても似たような発言をしていたこともあって、個別に掘り下げることはこの場ではしなかった。
大槻との面談終了後、凛がつぶやいた。
「なんか怪しいかも。佳奈さんと何かあったのかな」
「そうだな。彼の場合、他の女子からのアプローチも多いようだし、何とも言えないが少し注意しておいた方が良いな」




