第2章-⑫ ~告白~
第2章は全14話(①〜⑭)予定です。
マンガはこちら(第2章-①②③)
https://note.com/lush_plover1590/n/n336a21ab9b03
「何気ない話だったんです。ただ昔の院生の話をされて……『無理をして競争に勝て、って空気の中で潰れてしまった子がいた』って。『もっと声をかけてあげればよかった』って、そんな話をしてくださいました。その言葉が……鋭く胸に刺さったんです」
坂井は机の縁を指先でなぞりながら、静かに語り続けた。
「大迫先生は、何も指示などしていません。ただの思い出話。でも私は、ああ、これは私に向けた言葉だって、思ってしまった。私、もう一度見て見ぬふりをするわけにはいかないって、そう思ったんです。大迫先生は、多分、私が見ていたあの院生のことも知っていたはずです。」
柳澤は黙っていた。凛も頬杖をついたまま、じっと坂井を見つめていた。
「第一ラウンドは迷いながらも安田先生に入れた。票を変えるとき、すごく怖かったですよ。組織の空気を乱すことになるし、神谷先生が本当にうまくやれるかもわからない。でも……変えたんです。そして神谷先生が勝った」
その声に重みがあった。やがて坂井は、小さく笑って言った。
「私、正直に言います。票を変えたのは、誰かに頼まれたからじゃありません。でも、あの夜、大迫先生と話して─ああ、これ以上、誰かが潰れるのを見たくないって思ったんです。同じ後悔を繰り返したくなかった。最終的にその思いが行動に出た。それだけです」
「裏切り、じゃないですね。それは、優しさです」柳澤の言葉に、坂井はわずかに顔を上げた。
「それとあなたたちのヒアリングの後、考え込んだんです。学部のこと、本当に考えているのは誰だろうって。三島さんが『空気と信念、どちらで動く人かを見極めるべきです』って言いましたよね? あの言葉が、ずっと心に残っていました」
凛は驚いたように目を見開いた。
「私……そんなこと、言いました?」
「言いましたよ、さりげなく。あなたは、たぶん無意識だったと思う。でも私には、妙に刺さった」坂井は、かすかに笑った。
外は午後の光が差し込み始めていた。古びた窓の向こうに見える木々が、静かに風に揺れている。




