第2章-⑨ ~第一ラウンド投票~
第2章は全14話(①〜⑭)予定です。
マンガはこちら(第2章-①②③)
https://note.com/lush_plover1590/n/n336a21ab9b03
教授たちは一人ずつ、無記名投票用紙を手に投票スペースへと入っていった。会議室の一角に設けられた記入台は、遮音のために仮設のパーテーションで仕切られており、そこで行われるたった一筆が学部の行く末を決める。
筆を持つ手に、迷いがある者もいたはずだった。十五分ほどして、すべての票が集まり清水が壇上に立つ。
「敬称は略させていただきます」緊張の中、彼は開票を始めた。
「安田、一票……神谷、一票……安田……神谷……西原……」
投票用紙を一枚ずつ取り出し、名前を読み上げるたびに室内の空気がわずかに動いた。結果は、清水が事前に予想した情勢通りだった。
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第一ラウンド投票結果:
安田:五票
神谷:六票
西原:二票
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「過半数を獲得した先生はおられませんでした。したがいまして、最も得票が少なかった西原先生が外れ、次回投票における候補者は上位二名の神谷先生、安田先生となります」
清水はそう発表すると、手元のメモをそっと裏返した。その表情には落胆の色がにじんでいた。票の動きは、ほぼ読みどおり。しかし、それが悔しかったのだ。
内心、清水は神谷に期待していた。派閥に与せず、現実と理想のバランスをとるその姿勢が、これからの学部に必要だと感じていた。
全体を俯瞰で見ているはずの大迫もそれを願っているのではないか、とも感じており、その存在が空気を神谷の側に寄せてくれるのでは、と淡い希望を抱いてもいた。
だが結果は、現実的な予測通りの五対六対二。
「想定通り……か。逆に言えば、風は吹かなかったってことですね」
凛が小声でつぶやいた。柳澤はうなずくでも否定するでもなく、ただ黙って集計された結果を眺めていた。
「決選投票では西原票が安田に流れるはず。数字だけ見れば、安田が逆転勝利する流れですね」
「数字の上では、そうなるな」柳澤が答えた。
「数字の上では?」
「人間の票は理屈じゃないからな。言ったろ、ときどき風が吹くことがある、って」
ふと会議室の扉が開いた。浜崎と村瀬が、無言のまま席を立って廊下に出ていった。凛が眉をひそめた。
「……このタイミングで二人一緒に?」
「トイレじゃないだろうな。廊下の先は─大迫先生の研究室しかない」柳澤がぼそりとつぶやいた。
「……見ている人たちに行き先は知られても構わない、って感じの足取りですね」
凛の目が鋭くなる。二人の背中が廊下の角を曲がると、その姿は見えなくなった。
「さて、風は吹くのか。あるいは、ただの散歩か」
柳澤はそう言って投票結果のホワイトボードを見つめた。五、六、二─この数字の並びが、まだ何かを隠しているように思えた。




