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第1章 モテと嫉妬のミクロ戦争 ─好意のゆらぎ ①

マンガはこちら

https://note.com/lush_plover1590/n/na2df6904b1b7

第1章 モテと嫉妬のミクロ戦争 ─好意のゆらぎ


 五月の終わり。空がきれいに晴れわたり、空気が熱を帯びた午後。


 柳澤晴臣は、都内の某私立大学の門をくぐった。


 柳澤は三十代前半で細身の体をしており、肩に黒い薄型のPCバッグを掛けている。


 その隣には、白いブラウスにスラックス姿の女性─新卒三年目の三島凛が歩いていた。


 二人は民間のコンサルティング会社「ヒューマン・トラッカーズ」の職員である。


「なんだか……潜入捜査みたいですね」


 凛がハンカチで顔を仰ぎながら、軽口を叩いた。


「女子学生が一人、〝失踪〟って穏やかじゃないよな」


 柳澤は少し伸びをしながら、晴れ間を見上げた。


 今回の大学への派遣は、大学から仕事を請け負ったクライアント企業からの委託であり、下請けの仕事である。

 「人間関係を含む組織課題の分析・改善支援」と大げさなお題目が掲げられているが、結局は何でも屋のように個別の依頼に対応する予定だ。


 柳澤と凛、二人の上司である奥田からは、


「君ら、そういう仕事が専門、というか好きだよね。まあ、委託を受けた企業は得意先だし、大学とも良い関係を築いておきたいから、何でも対応しておいてね」


と言われていた。確かに何でも屋である。


「この依頼案件、ちょっと変なんですよね」


 凛がスマホを操作しながら言った。


「最初は普通の人間関係の可視化の依頼だったのに、途中から、研究室内での揉め事が発生、って追加で連絡がありましたよね」


「研究室での揉め事、な」


 柳澤は小さく笑った。


「人間行動の研究室ってとこが、また皮肉だな」


「人間関係の研究者たちが人間関係で揉めるって、ちょっと笑えますよね?」


「まあ、医者が風邪をひくようなもんだ」

 

 二人は大学構内の坂を登りながら、依頼内容の詳細を再確認する。


 大学の事務当局を通して連絡のあった依頼主は、学際的な情報系研究室の田貝教授。心理、経済、行動、情報科学の境界領域を扱っている。人間行動の数理モデルを専門とするベテランだ。


 教授は大型予算獲得のために奔走しており、最近は研究室を不在にすることが多かった。


「学生たちの関係がギクシャクして、研究室内の雰囲気が悪くなっているようだ。できれば、外部から客観的に見た概況を報告してほしい」


というのが多忙な教授からの依頼であった。


「恋愛絡みらしい、という話もあるみたいですね」


 凛がファイルをめくりながら補足した。


「直接的なハラスメントとか暴力ではないらしいけど、女子学生の一人が急に来なくなった。大げさに言うと〝失踪〟したみたいで」


「ありがちで、だけど根が深いかもしれないパターンだな」


 組織課題の分析という名目のもと、大学はこのコンサルティングを導入していた。学生同士のトラブル解決になり、学内の対人構造が健全化するという建前は、大学にとって悪くない。


「じゃあ、お仕事開始ですね」


「まずは火種を見つけることからだな」

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