第2章-④ ~立候補者たち~
第2章は全14話(①〜⑭)予定です。
マンガはこちら(第2章-①②③)
https://note.com/lush_plover1590/n/n336a21ab9b03
翌朝、柳澤と凛は清水の用意したリストに従い、順に教授たちの居室を回ることにした。昨日、清水と話したように、外部コンサルタントとしてヒアリングを実施する名目で、話題は主に今後の文学部の方向性という一般的なものにしている。
内実は今回の選挙についてどう考えているか、を聞くものである。柳澤らのような部外者が関心を示すことは、投票者らに見られているという緊張感を与える。本来の目的である公正な選挙の実施に、確かに一定の効果はありそうだ。
渡されたリストには教授らの名前が書かれていた。
----------------------------------------------------------------
立候補者(三名)
安田 弘樹
神谷 航一
西原 志穂
その他の教授会参加者(十名)
浜崎 怜司
村瀬 勝彦
坂井 由紀子
・・・
・・・
---------------------------------------------------------------
立候補者の三人にも投票権があるので、全部で十三人。棄権や白票などの無効票がなければ七票以上の得票で過半数となり、研究科長に選出されることになる。
文学部の廊下には、前日の雨の名残がほのかに漂い、古びた壁のポスターや掲示板が時間の堆積を物語っていた。
最初に訪れたのは浜崎教授。柔らかな物腰と、年季の入った茶色のカーディガンが印象的な人物である。
部屋に案内されると、浜崎は椅子を引きながら苦笑を浮かべ、ガラリと開いた窓から吹き込む風に、さっとカーテンを抑えた。
「いやあ、どの先生も甲乙つけがたいですよ。安田先生のエネルギーも、神谷先生のバランス感覚も、西原さんの意欲も……それぞれに長所がありますからね」
その言い回しは一見中立的だが、柳澤と凛には、その裏にある避けようとする力が透けて見えた。凛が静かに問いを重ねる。
「票はもう決めていらっしゃいますか?」
浜崎は少し肩をすくめ、湯気の立たないコーヒーカップを口に運んだ。
「決めているかどうか……難しいところですね。ま、会の雰囲気を見てから、という感じかな。ああ、でも、やっぱり最終的には〝大迫先生の目〟を意識しちゃうかもしれませんね」
「大迫先生?」
凛が軽く反応すると、浜崎は慌てたように笑った。
「ああ、いえいえ、あくまで昔の話でしたね。あの人は今じゃほとんど表には出ませんから。ただ……やっぱり、かつての決め方が身体に染みついてるというか、ね」
研究室を出ると、凛がすぐにメモを開いた。
「雰囲気を見てからって言う人、絶対に決めていない。それか、決めているけど言わないか、のどっちかですね」
「たぶん前者だろう。誰にも恨まれたくないんだ。票を持っている人間は、誰よりも慎重になる。あと、〝大迫先生の目〟ってなんだろうな」
柳澤はそう言いながら、次の研究室へと足を向けた。




