第2章-③ ~呼ばれた理由~
第2章は全14話(①〜⑭)予定です。
マンガはこちら(第2章-①②③)
https://note.com/lush_plover1590/n/n336a21ab9b03
清水は数枚の紙資料を机に並べた。
いずれも手書きで「票読み」とタイトルが記されていた。そこには教授陣の名前、想定支持先、信頼度、変動リスクなどが細かく記されている。
「今回は三人の候補が立っています。安田教授、神谷教授、そして西原教授」
「三つ巴ですか。票が割れますね」凛が資料をのぞき込みながらつぶやいた。
「ええ。初回の投票では過半数を取る人はいない見込みです。票が最も少なかった候補が辞退して、次のラウンドに移ります」
「まるでどこかの党の総裁選挙みたいだな。」柳澤が茶化すように言うと、清水は苦笑した。
「教授会って表向きは静かに見えて、実際は派閥や微妙な人間関係の綱引きで成り立っています。今回も水面下でだいぶ揉めています。特に安田教授を推す勢力と、それを牽制する勢力がぶつかっていて……」
それにしても単なる選挙管理の立場からすると、票読みといった管理を超えた中身に関わることまで、清水がやる必要があるのだろうか。柳澤はその点に違和感を覚えつつ、尋ねた。
「それで、我々はどんな立場で動けば良いんですかね?」
「まずは選挙を滞りなく実施するための事務処理を手伝ってほしいです。そして、こちらが本当にお願いしたいことなんですが、透明性の向上という名目で、各教授にヒアリングなどをしていただきたいんです。」
選挙規定上、投票は無記名で行われる。誰が誰に投票したのかわからないことは不透明性を生みやすい。
過去には生臭い裏工作や派閥圧力によるもの、と容易に推察される結果の選挙があり、大学当局から問題視されたこともあったようだ。
清水は、今回の選挙が「学部の将来を左右する分岐点」であり、どこからも疑念の出ない公明正大なものにするべきと考えていた。清水が硬めの口調で言った。
「もちろん、我々には無記名投票の内容に介入する権限はありません。ただ……今回の選挙にも、少しばかり気になる空気がありまして」
「空気?」柳澤が問い返す。
「はい。たとえば、派閥の上からの指示が出てるとか、あいつを裏切ったら干されるとか。そういうことが起きていないとは言い切れないんです」
凛が軽く口を開いた。
「見えない圧力、というやつですね。」
清水はうなずく。
「公正な選挙を実現するには、この制度ではどこまでいっても困難なところがありますが、制度の変更には時間がかかる。 誰かが見ている、という透明性が牽制になることがある。お二人には、そういう観点から……教授たちの行動の傾向を観察していただければと」
つまり、「外部コンサルタントを透明性強化の名目で介入させる」ことで、立候補者、投票者をはじめとする関係者の行動を抑制しつつ、将来の制度改革の根拠にしたいという思惑であった。
凛が少し踏み込んだ質問をする。
「清水先生は誰か特定の候補を応援したい、とかあるんですか?」
清水は一瞬言葉を探してから、慎重に答えた。
「個人的には神谷教授を尊敬しています。でも、それは私情です。あくまで、教授会が正当な意思決定をする環境を整えたい。それだけです」
柳澤は少しだけ目を細めた。
「話はわかりました。大丈夫です。観察するというのは、我々の得意分野なので」
そして、手元のメモにこう書きつけた。
─今回のターゲットは、票の動き。それを操る、見えない力を読む。




