終わりから始まりへ
ここまで読んでくれてありがとうございます!
天界編、ついに核心に触れてきました。
《違和感》として積み重ねてきたものが、少しずつ形になり始めています。
そして今回――ひとつの終わりと、ひとつの始まりが交差します。
この物語の《原点》に繋がる、大事な回です。
ぜひ最後まで見届けてください。
――話は戻って。
静寂が戻ったはずの天界。
けれど――
その静けさは、どこか歪んでいた。
音がないのに、ざわついている。
光は満ちているのに、どこか冷たい。
「……ねえ」
ぽつり、と。
ラファリンが小さく呟いた。
その声は、やけに低かった。
「……キャワがいない」
一瞬、誰も反応しなかった。
いや――できなかった。
その一言が、あまりにもありえないものだったから。
「何言ってんのよ」
誰かが笑おうとした。
けれど、その声は途中で止まる。
ラファリンは、笑っていなかった。
むしろ――確信していた。
「最初から、あれは違った」
空気が、変わる。
ざわり、と。
目に見えない波紋が、天界全体に広がっていく。
「違うって……何が?」
問いかける声も、どこか揺れている。
ラファリンはゆっくりと視線を巡らせた。
さっきまでそこにいたはずの存在をなぞるように。
「気配が薄すぎるんだよ」
「キャワは、あんなに静かじゃない」
その言葉に、何人かが息を呑んだ。
確かにそうだ。
あの天使は、もっと――
軽くて、騒がしくて、場をかき回す存在だったはずだ。
「……じゃあ、あれは誰だったの」
答えは出ない。
けれど。
理解だけが、じわじわと広がっていく。
最初からいなかった
最初から、ここに紛れ込んでいた
その事実が…
「探すよ」
ラファリンが言った
短く、強く。
その瞬間、天界の空気が一変する
静寂は消え、代わりに張り詰めた緊張が走る。
光の中を、天使たちが動き出す。
翼がはためき、
気配が交差し、
見えない何かを追い詰めるように。
…しばらくして
「…いた!!」
誰かの声が、遠くで響いた!
誰もこない禁書庫の傍、光が届かない祭壇の前…
小さくうずくまるようにして《本物》のキャワは、そこにいた。
眠っているのか、
閉じ込められていたのか、
あるいは…
「…最初から、外されてたってことね」
ラファリンが言う…
けれどその奥に、
確かな怒りが滲んでいた。
「誰かが、入れ替えた」
光の天界に、ありえないはずの異物。
それが、確かに存在していた。
封印の中。
弱々しく、それでもどこか呆れたようにキャワは笑っていた…
「……私より、私っぽかったよね。アイツ」
天界全体が騙されていた
そこへ、
「ミカエルさんほどの天使が、なぜ…」
神の言葉が落ちる。
「ロキです」
周りの者は言葉を失う…
けれど、キャワはそれ以上何も答えない。
その代わり。
ふ、と視線を逸らした。
ほんの一瞬。
本当に、ほんの一瞬だけ。
「……?」
ラファリンの眉が、わずかに動く。
視線の先。
キャワが囚われていた封印の陣の奥…
普段なら誰も気に留めないはずの場所。
石造りの祭壇。
そして、その上にぽつんと置かれた物
そこにあることが自然に思えてしまう違和感だけが、じわりと広がる…
そこにあったのは、
赤く艶やかな果実。
みずみずしく、光を弾くそれは、
この場に似つかわしくないほどの気配を放っていた。
ほんの微かに。
けれど、確実に。
「……苺?」
ぽつり、と。
ラファリンが呟いた。
その声は、
さっきまでの空気とは、ほんの少しだけ違っていた。
ラファリンの目が、細くなる。
(……今、キャワが反応した?)
「いてて…急に……お腹が……」
……。
「……く、苦しい……!」
と白々しく崩れ落ちた。
「これはいけません!すぐに救護を!」
神が言う
周囲が一斉に動く。
慌ただしく、誰かが駆け寄り、
誰かが結界を解こうとする。
その中でーー
ただ一人。
ラファリンだけが、動かなかった。
じとー……っと、
床に倒れたキャワを見下ろす。
そして、ゆっくりと視線をずらす。
祭壇。
皿。
いちご。
その手前に封印の陣…
そしてほんのわずかに残る、気配。
(……なるほどね)
小さく、ため息。
(ロキ…、性格悪すぎでしょ)
ラファリンの目が、さらに細くなる
(こっちはこっちで単純すぎるし)
「……ねえ!?キャワ?!」
ぽつり、と呟く。
「お腹痛くないだろ…」
ぴたりとキャワが止まった
「シー!!言うなよ!言うなよ!!」
「あはは、言わないよ」とラファリンが言った
数秒の沈黙…
「でも無事でよかった!」
「うん!ありがとう」
ーー
その少し離れた場所…
無機質に重く白い。
ルシファーが堕天した場所に
レミエルは、立っていた
「……違う」
震える声
「ルシファーは、悪くないのに!」
顔を上げる。
「全部見てた…ロキがやったんだ…!」
「私の責任」
けれど…
「秩序は、結果で判断される」
その一言が、すべてを断ち切る。
「…じゃあ」
レミエルは、ゆっくりと息を吐いた。
「救うって、何だよ?」
誰も、答えない。
「全部受け止めるのが間違いで」
「助けるために壊れるのも間違いで」
一歩、踏み出す。
「じゃあ、何が正しいんだよ!」
静寂。
ただ、沈黙だけが返ってくる。
「……そっか」
小さく、笑う。
その笑顔は…少しだけ壊れていた。
「じゃあ、いいや」
光が、揺れる。
「私は、私のやり方でやる」
止める声は、もう届かない。
「全部、受け止めるよ」
静かに。
本当に、静かにーー
時間が流れた。
下界では百年ほど。
天界では、ほんの一瞬。
気づけばーー
レミエルは、天界から外れていた。
それは、罰ではない。
拒絶でもない。
ただーー
自分で選んだ!
後に、それは《堕天》と呼ばれる。
けれど本当は。
一人の大天使が、
自分の在り方を曲げなかっただけの話。
神のやり方に賛同できなかっただけ…
そして。
壊れなかった代わりにーー
ひとつでは、いられなかった。
優しさは、重くて苦しい。
だから。
分かれた。
とても温かい、
《すべてに平等な闇》と、
《すべてを照らす光》に。
それが後に、
ミニエルとエルになることをーー
まだ、誰も知らない。
ーー
「あはは!可愛い!!」
場面は、変わる。
商店街の隅。
猫たちに囲まれて、はしゃぐ一人の少女。
「こうして君達はグルグル言うんだな?!」
「首が気持ちいいのかぁ!私にはお見通しだぞ!?」
無邪気な笑い声。
その時。
《キラキラ、パチン》
空気の奥で、光が弾けた。
「……ん?」
少女が顔を上げる。
「何?光が騒がしいなぁ」
視線を辿る。
その先にーー
一人の少年がいた。
「……なんか、こっち見てるような?」
少女は足元の小石を拾い、軽く左へ投げる。
少年の視線が、それを追う。
今度は右へ。
やはり、目で追う
そして
ぴたり、と
視線が、合った。
一瞬の静寂…
少女は、少しだけ目を細めてーー
くすっと笑った。
「……私、見えてます?」
ここから始まる物語
第四話、ありがとうございました!
タイトルの通り――これは「終わり」であり、「始まり」です。
ロキの介入、ルシファーの堕天、そしてレミエルの選択。
すべてが繋がって、ミニエルとエルという存在に辿り着きました。
ここまで来て、ようやく『私見えてます?』
この物語の《最初の一言》に戻ってきました。
5月9日土曜日から3章始めます!!
なおきとミニエル、エル達の裏の物語が動き出します。
主人公変わります!散りばめた伏線回収しまくります!
5月9日までに読み返しておくことをお勧めしますww
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皆さんと一緒に、この物語を広げていけたら嬉しいです。




