曲がらない逸脱と、堕とされた大天使
今回の話は、少し重いです。
でも、この物語の中で、どうしても避けて通れない始まりでもあります。
「正しいこと」って、なんでしょうか。
決められたルールを守ること?
それとも、目の前の誰かを救うこと?
この話は、そのどちらかを選ばなければならなかった、
不器用な一人の大天使の物語です。
そして――
その選択が、すべてを変えます。
少しでも何か感じてもらえたら嬉しいです。
「どこまでが《正解》なんだろうね?」
そう言い残してロキは姿を消した…
その問いに、答えはない。
ただ、
レミエルの中で、
何かが、確実に崩れ始めていた。
その時
「……無理だろ、それ」
静かな声が、割り込んだ。
振り返る。
そこにいたのは――ルシファー
「全部抱えるとか、さすがにやりすぎだよエル!」
やわらかく笑って、前に出る。
「……来ちゃ…ダメ、ルシ フ…」
「大丈夫!」
一歩、踏み出す。
「こういうのはさ」
「分けた方がいいんだよ」
「抱えるものじゃない」
「手放していいものもある」
「捨てていいものだってあるんだよ」
その瞬間。
光が弾けた。
歪みが、すべて――ルシファーへと流れ込む。
禍々しい絡まった魂の全てをルシファーが引き受けた!
その瞬間だった。
「――それは、君の役目ではない」
声が、落ちてきた。
上でも、横でもない。
この世界そのものから、直接響いてくるような声。
空間が、歪む。
光の流れが止まり、
精霊たちの動きが凍りつく。
時間さえも、一瞬だけ従わされた
「……っ!!」
レミエルの身体が沈む。
抗うことすら許されない、圧倒的な重圧。
それは――《神々の声》
『その行為は、秩序を逸脱している』
感情のない宣告。
善悪ではない。
ただ《逸脱》という事実だけが突きつけられる。
(違う……)
レミエルの思考が軋む。
(これは、救うためで…)
その意志さえ、押し潰される。
その中で。
ただ一人、普通に立っている者がいた。
ルシファーだった。
「でもさ」
少しだけ笑う。
軽い調子。
けれど、その瞳は揺れていない。
「分かってるよ」
一歩、前へ出る。
「役目じゃないってことも」
「ここの決め事の中ならやりすぎだってことも」
レミエルの前に立つ。
守るように。
庇うように。
「でもさ」
ほんの少しだけ肩をすくめる。
「見てるだけってのも、違うでしょ」
その言葉は、静かに――確かに、反していた。
次の瞬間。
光が、弾けた。
歪み。
矛盾。
絡み合った魂。
そのすべてが――
一斉に、ルシファーへと流れ込む。
「っ……!」
空間が軋む。
レミエルが抱えきれなかったものを、
まるごと引き受けるように。
『――それは、君の役目ではない』
再び、神の声。
「うん…まあ、無理だなここは…」
ルシファーは、あっさり頷いた。
「だからやったんだけどね…」
迷いはない。
「こっちの方が、いいでしょ」
この世界は、本来。
どんな魂であろうと、癒し、還す場所だ。
壊さず。
捨てず。
すべてを受け入れる。
それが、絶対のルール。
――けれど。
ルシファーは、違った。
流れ込んだすべてを受け止めて、
その奥にある《歪み》だけを見つめて、
そして。
消した。
黒く濁った再生できない真核を、魂を、《消した》のだ。
一瞬。
完全な静寂。
天界は、静かに呆気なく彼を断罪した。
音はない…
怒号も、裁きの言葉も、何ひとつ。
ただ――
光が、変わった。
それまで均一に満ちていた光が、わずかに距離を取る。
避けるように。
拒むように。
ルシファーの周囲だけ、世界から切り離されたように空白が生まれる。
「後は頼むよ」
ルシファーの言葉が、落ちる。
「ルシファー、待ってよ…!」
レミエルの声が、裂けた。
「なんで…なんでそんなこと言うの?勝手じゃん!」
一歩、踏み出す。
空間が震える。
「それ、ルシファーがやることじゃない!」
「私の……私の役目だったでしょ!!」
声が崩れる。
「なんで…奪うの…」
「なんで、代わりに…!」
手を伸ばす。
届かない。
「私が……やるって言ったのに……」
「返してよ……!!」
何もかも分からないまま。
ただ叫ぶ。
「全部…ルシファー、…無くしちゃうじゃん……」
ルシファーは、振り返らない。
ただ一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、目を閉じた。
『ルシファー』
再び、神の声。
「秩序の逸脱」
「魂の消失」
「規定違反」
淡々と、罪が積み上がる。
「……ああ、はいはい」
ルシファーは肩を回す。
「全部その通り」
否定はしない。
ただ。
「でもさ」
視線を上げる。
「それで、何人救えたの?」
空気が、凍る。
沈黙。
誰も答えない。
「……だよね」
小さく笑う。
その笑顔は、どこか寂しかった。
バサッ――
翼が広がる。
純白の羽が、光を弾く。
「ま、いいや」
「こういうの、向いてないみたいだし」
光が、離れていく。
ゆっくりと。
確実に。
「じゃあね」
最後に、ほんの一瞬だけ…
レミエルを見た
優しい目で。
次の瞬間。
光が、弾けた。
白が、剥がれ落ちる。
空間が裂ける。
重力が反転する。
堕ちる。
音もなく。
ただ、まっすぐに。
その背の翼が、軋む。
白が、黒へと染まっていく。
一枚、また一枚と。
それでも。
ルシファーは、振り返らなかった。
完全に姿が消えた時。
天界は――
何事もなかったかのように、静寂へと戻った。
《堕天》
愛に満ち、光に愛され、人の子ども達を誰よりも愛した大天使は、すべての罪を背負ったまま、追放された…
ーー
禁書庫の奥。
聖典には、こう残る。
ルシファー、
堕天しサタンと名乗る存在。
もし――
誰にも知られずに、
今もなお与え続ける者がいるとしたら。
それは、別の名前で呼ばれている。
子どもたちに、静かに贈り物を届ける者。
その名を――サンタと
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ついに来ました!ルシファーの堕天。
ここ、実はこの物語の《核》の一つです。
彼は悪だから堕ちたわけじゃない。
むしろ逆、優しすぎたから、堕ちた。
そしてもう一つ。
最後に出てきたサンタの話。
これ、ちゃんと繋がっていきます。
「あれ?」って思った人、正解ですw
この先で、なぜ堕天した魔王サタンがサンタと呼ばれるのか?
スピンオフ明日が四話ラストです!
そして【明日は大切なお知らせがあります】
もし少しでも「いいな」と思ってもらえたら、
ブクマ・⭐︎評価、リアクションめちゃくちゃ励みになります。
次回も、ぜひ読んでもらえたら嬉しいです!




