名前のない贈り物
ここから――第三章、始まります。
天界編を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!
今回は、なおき達の物語よりも少し前。ある魔王と、小さな贈り物から始まる冬のお話です。
でもきっと、この物語はどこかで、なおき達の世界へ繋がっていきます。
そして実は……3話目あたりから、新しいもう一人の主人公も登場します!
鋭い人は分かりますよねw
今までとは少し違う空気の第三章、ゆっくり楽しんでもらえたら嬉しいです!
今から100年以上前の話…
雪が降っていた…
音もなく、ただ静かに。
白く染まった世界の中でーーそれは、落ちてきた。
空を裂いたわけでもなく、地面を砕いたわけでもない。
ただーー
《そこにあったはずのものが、一つ消えた》ように。
そしてーー
《そこにあるはずのないものが、一つ増えた》
それだけの事…
ある村の、古びた山小屋。
もう何年も、人が住んだ気配はなかった。
その中で…
男は、目を開けた。
最初に見えたのは、白い息だった。
「……寒いな」
それが、最初の言葉だった。
身体は重く、感覚も鈍い。
だが、それでも分かる。
ここは…
元居た場所ではないと…
ゆっくりと体を起こす。
森。
雪。
そしてーー
隙間風と《誰か》の気配。
「誰かいるのか?」
声は低く、かすれていた。
返事はない。
だが、気配はある。
戸惑いと、ほんの少しの好奇心…そんな気配だ。
そのすべてが、隠しきれていない。
「出てこい」
ギシ、と。
木の床が鳴る。
柱の影から、小さな影が現れた。
子供だった。
「……」
じっと、見ている。
逃げない。
ただ、震えている。
「…人間の子か」
男は少しだけ目を細め、黒い髪が静かに揺れた
前髪は目元を隠すほどに長く、
その隙間から覗く瞳は、光をほとんど映さない。
底の見えない黒。
肌は白く、冷たい空気の中でも異様なほどに際立っている。
背は高く、すらりとした体躯。
ただ立っているだけで、この小屋の空気そのものが支配されているかのようだった。
整いすぎた顔立ち。
ーーだが、その美しさはどこか危うい。
近づけば壊れそうで、
それでも、目を離せない。
男は、少しだけ目を細めた。
「お前、こんなところで何をしている」
その問いは、どこか自分自身に向けたものでもあった。
やがて、子供が小さく口を開く。
「……泣いてた」
「ん?」
「誰が?」
「……お母さん」
風が、静かに通り過ぎる。
「貧乏だからクリスマスのお祝いできないって…」
「…そうか」
それだけだった。
沈黙。
雪の無音だけが、世界を満たす。
「ねえ」
「なんだ」
「名前、なんていうの?」
その瞬間。
男の思考が、止まった。
名前。
本来なら、最も確かなもの。
だがーー
思い出せない。
何も。
ただ一つ、
魂の奥に刻まれた言葉だけが浮かぶ。
黒い鎖のように絡みついた言葉(名前)
「…サタン」
子供は、首をかしげた。
「サタンさん?」
そして、少しだけ考えてから。
にこっと笑う。
その瞬間。
何かが、変わった。
ほんの、ほんの少しだけ。
男は、ゆっくりと立ち上がる。
そして、子供の前に、何かを差し出した。
小さな、木の馬。
不格好で、でも丁寧に削られている。
「やる」
「え?」
「君に」
子供の顔が、ぱっと明るくなる。
「いいの?」
「ああ…少しだけ力を込めてある」
「ありがとう!」
その言葉に。
男は、わずかに目を見開いた。
ありがとう
その言葉をーー
直接人間から向けられたのは、初めてだった。
雪は、降り続いている。
世界は、まだ冷たいまま。
それでも…
その日。
堕天したその日。
一つだけ。
確かに生まれたものがあった
ここまで読んでくださってありがとうございました!
《サタン》という名前。そして、最初にもらった「ありがとう」。
この先、どんな100年を歩いたのか。
ゆっくり描いていけたらと思っています。
そして次回以降、少しずつ新しい物語も動き始めます。
もし、
「続き気になる!」
「この雰囲気好き!」
と思っていただけたら、
ブクマ、☆評価、いいね、リアクションなどで応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!
今回かなり集大成な章になります
一緒に追いかけてもらえたら嬉しいです!
この三章も20時10分に投稿しますのでお楽しみに。




