帰ってきた場所とコロッケの味
少しだけ、過去に触れるお話です。
懐かしい場所って、
変わらないようで、少しだけ違っていて。
それでも――
ちゃんと残っているものがある気がします。
今日と明日、続きの話になります!
お楽しみにー
バスを降りると、都会とは違い少し冷たい風が頬をなでた。
稲が刈り取られた田んぼ。
低い山。
曲がった一本道。
「……変わらないなー」
なおきは小さくつぶやいた。
「あ、あれカカシだ!!なんかお姉ちゃんそっくり」
「なおきぃー、またミニエルがー」
「確かにエルそっくりだわ!!あはは」
「あんた達、覚えてなさいよね」
「ここがなおきの育った町?」
ミニエルが辺りをきょろきょろ見回す。
「うん」
なおきは軽くうなずいた。
「まあ……あんまり良い思い出はないけど」
ミニエルが少しだけ眉を下げる。
エルが静かに言った。
「それでも来たんだもんね」
「えらいえらい!」
「うん」
なおきは少しだけ笑った。
「育ててもらったからさ」
「嫌な思い出ばっかじゃないんだよ」
ミニエルがにこっと笑う。
「なおき、えらい」
「そんなことないよ」
しばらく歩くと、見慣れた家が見えてきた。
古い木造の家。
瓦屋根。
庭には、少し錆びたブランコ。
「ここ」
ミニエルが目を丸くする。
「なおきのお家?」
「昔のね」
なおきは玄関の前で少し立ち止まる。
「この辺さ」
ぽつりと言った。
「田舎だから、すぐ噂広まるんだよ」
「噂?」
ミニエルが首をかしげる。
「子供が一人増えた、とか」
なおきは苦笑する。
「おばさん、近所の人に言ってたんだ」
「なんて?」
なおきはあっさり言った。
「親に捨てられた子を引き取ったって」
ミニエルの顔が固まる。
「ひどい!」
「…うん」
なおきは肩をすくめる。
なおきは戸を開けた。
ガラガラ。
懐かしい音。
「ただいま」
奥から声がした。
「ん?誰?」
台所からおばさんが顔を出す。
そしてなおきを見て目を見開いた。
「なおき?」
「久しぶり」
おじさんも奥から出てくる。
「急にどうした?」
「うん、たまにはね」
「……そうか」
それ以上は何も聞かない。
ミニエルが小声で言う。
「思ってたより普通の人」
「でしょ!」
「おじさんとおばさん」
ミニエルとエルに静かに紹介した
「とりあえず上がりな」
「……お腹減ってるだろ」
「え?」
「コロッケあるよ」
なおきは少し驚いた顔をした。
「またコロッケ作ってんの?」
「文句ある?!」
「ないよ」
ミニエルが嬉しそうに言う。
「コロッケ!!」
「なおきと一緒じゃん!いつも買うもんね」
「そういえばそうだよね」
コロッケの山からひとつ自分の皿に取り分けた
揚げたての匂い。
どこにでもあるような、ありふれた匂い。
――のはずなのに。
ひと口かじる。
さく、という軽い音のあとに、
ほくほくとした甘さが、ゆっくり広がった。
「……あつ、」
小さく、息が漏れる。
思い出した、というより。
勝手に、重なった。
まだ小さかった頃、
台所の端で座って待っていた時間…
油のはねる音と、
「もうすぐできるよ」という声…
あのコロッケと、
今食べているそれは、きっと違うとは思う…味も、おばさんがどう作ってたかも忘れちゃった…
なのに…
「…美味しい」
ぽつりと、なおきは言った。
誰に向けたでもなく。
ミニエルが嬉しそうに頷く。
「ねっ!」
エルは何も言わない。
ただ、ほんの少しだけ視線を落とした。
なぜか優しい時間と湯気が、ゆっくりとほどけていく。
その向こうにあるものには、
――まだ、誰も触れないまま。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今日と明日のお話は、なおきの原点のような時間です。
思い出って、はっきり覚えているものだけじゃなくて、
匂いや味みたいに、ふと重なるものもありますよね。
何気ない一瞬が、
あとから振り返ると一番大事だったりする
そんな空気を感じてもらえていたら嬉しいです。
そして、明日は《この話の核の部分の伏線が回収》します!なおきが捨てられた子なのか、エル達が言ったように愛された子なのか、それとも…
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