バイト先を尾行したら、想像以上に尊かった件
今回は、なおきの「見えない時間」のお話です。
普段一緒に過ごしていると、当たり前になって見えなくなるものってありますよね。
でも、ふとしたきっかけで知ってしまう知らない一面…
それがちょっと嬉しかったり、ちょっと照れくさかったり。
そんな距離感のお話になっています。
少しだけドキドキしながら、読んでいただけたら嬉しいです。
「バイト行ってきまーす!」
玄関で靴を履きながら、なおきが言った。
平日は下校後から19時ごろまでと、土日は午後から夕方まで。
週に四日ほど入っている、なおきのバイト。
―なのに、
「そういえばさ」
ミニエルが首をかしげる。
「なおきのバイト先って知らなくない?」
エルもふっと顔を上げた。
「……確かに」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「ついて行ってみよう!」
ミニエルがぱっと立ち上がった。
「尾行?」
エルが小さく笑う。
「変装すれば大丈夫でしょ」
数分後。
二人は鏡の前に立っていた。
ミニエルは、今流行りの韓国っぽいファッション。
ミニスカートにショート丈のトップス。
キャップを深めにかぶる。
「どう?」
くるっと回る。
エルはバナナ型のゆったりしたデニムに体のラインが出るトップス。
仕上げに――
銀縁の水色サングラス。
「……別人ね」
「なおき気づかないかな?」
「たぶんね」
「あー見えてあーだから!」
「どう見えてどうだよ!」
「あはは」
普段とは全然違う服装。
ちょっと楽しくなってきた。
「行くよ」
「了解」
人混みに紛れながら、距離を保ってついていく。
ミニエルは楽しそうに、エルは少しだけ警戒しながら…
尾行してたどり着いたのは、アンティークな雑貨店とカフェが併設されているお店だった。
古い木の看板。
窓辺には小さなランプや雑貨。
若い子も入りやすそうだけど、
どこか少しマニアックな雰囲気。
「へぇ、こんなところで働いてるんだね」
店内では数組のお客さんが
コーヒーを飲んでいた。
「チーズケーキがおすすめなんですよ」
「ショートケーキも人気で」
なおきの声。
「あっ」
ミニエルが小さく声をあげる。
「あ!なおきいる!」
カウンターの向こうで、
なおきが働いていた。
注文を取って、
ドリンクを運んで、
お客さんと笑っている。
エプロン姿、普段は見ない格好
ミニエルがぽつりと言う。
「なんかさ」
「かっこよくない?」
エルも小さく笑う。
「うん」
「普段と違うね!」
距離は近い。
でも見つかると面倒なので、
二人は店の角の死角から覗くことにした。
まるでスパイみたいに。
「なおきの働いてるとこ、初めて見た」
「……うん」
エルが静かにうなずく。
「かっこいい…」
しばらくすると、店内も落ち着いた。
なおきが年配の男性と話している。
どうやらオーナーらしい。
「今日も早めに上がっていいからね」
「いつもよく働いてくれてるから」
「ありがとうございます!」
なおきが笑う。
「若いのに頑張ってくれるから助かるよ」
「やった!そうやって言われると嬉しいです」
オーナーがふと思い出したように言った。
「そういえば、彼女さんと暮らしてるって言ってたよね?」
ミニエルとエルがピクリと反応する。
なおきは笑った。
「可愛いエピソードたくさんの彼女さんだったよね?!」
「あはは、相変わらずですよ」
「寝相悪いし」
「朝起こさないと起きないし」
「家事はまるでダメで」
「勘違いして嫉妬もよくするし」
物陰で聞いていた二人の顔が赤くなる。
「え?」
「どんな話してるの?!」
顔を見合わせる。
なおきは続ける。
「ご飯食べに行くとよくこぼすし」
「この前なんて、パフェ倒しましたからね」
「あと友達が猫しかいなくて、よく話しかけてます」
「僕のベッド占領するし」
「……あと風呂上がりにアイス全部食べるし」
「焼き小籠包で口も火傷してたか…」
「とにかくドジでおっちょこちょいで何でも考えずに聞いてくるし」
物陰。
ミニエルとエルの顔。
怒り。
「……なおきのバカ」
「言いすぎ」
「悪口だよね!!」
今にも飛び出しそう…
その時、
なおきが少し真面目な声で言った。
「でもね、」
二人が止まる。
「僕の彼女は、みんなにはすごくいい人で愛情深いで通ってるんです」
「人の心を癒す仕事してて」
「優しくて」
「ちゃんとしてて、おっちょこちょいには見えないぐらい綺麗で…」
なおきは少し天井を見上げた。
「だからこそ」
「僕の前では、自分らしくしててほしいんですよね」
オーナーが静かに聞いている。
なおきは続ける。
「実際に僕しか言わないことなら…」
「僕だけは、こうやって彼女のダメで恥ずかしいところを面白く言っていいかなって」
「そんなところ、誰も…僕しか知らないから」
「言える人いないし、彼女のこと誰も知らないからオーナーには聞いてもらってるんです」
「だからありがとうございます」
少し沈黙。
オーナーが小さく笑った。
「こちらこそありがとう」
「え?」
「ウチの奥さんはね」
「とっくに死んじゃったんだけど」
窓の外を見る。
「なんかね」
「いい思い出しか出てこないんだよ」
「喧嘩もしたし」
「口もきかなかった日も何度もあった」
「でもね」
「そういうのがあまり思い出せないんだ」
「不思議とね」
少し笑う。
「いい思い出ばかり積み上がる」
「それが悪いってわけじゃないんだけど」
「なんだか月日を感じるよ」
そしてなおきを見た。
「東雲くんの話聞いてたら」
「少し思い出した気がする」
ーー
物陰。
ミニエルとエルは肩を寄せ合った
「……なんか」
ミニエルが言う。
「嬉しくなっちゃった」
エルも小さく笑う。
「うん」
少し沈黙。
そして。
「許してあげよっか!?」
「うん!」
ーー
夜。
「ただいまー」
「おかえりー!」
なおきが部屋に入った瞬間。
ミニエルとエルが言った。
「寝相悪いし」
「朝起こさないと起きないし」
「家事はまるでダメで」
「嫉妬もよくするし!」
なおきが固まる。
「え?」
「なになに?!」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「……ううん!」
ミニエルが笑う。
「なおき」
エルも微笑む。
「大好きだよ」
完全に混乱。
「え?」
「え???」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、なおきのバイト先をこっそり覗くという、ちょっとした日常の中の非日常を書いてみました。
本人がいないところで語られる想いって、なんだか特別ですよね。
そしてそれを聞いてしまった側の気持ちも…書いていてとても楽しかったです。
少しでも「いいな」「尊いな」と思っていただけたら、とても嬉しいです。
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これからもエルとミニエル、そしてなおきの日常を見守っていただけたら嬉しいです




