グラウンド
同じ時間の中でも、
見えている景色も、感じている重さも、人それぞれ違う。
これは、そんな《ほんの少しの違い》の中で、
ほんの少しだけ前に進んだ、ある一日の話。
その日の体育の時間はサッカーだった…
ゆずるという生徒の話。
ボールが足にうまくついてこない。
たったそれだけのことなのに、
周りとの差が、やけに大きく感じる。
「ゆずる!そこ取られんなよー!」
笑い声が飛ぶ。
「おいおい」
軽い調子。
悪気なんてないのは、分かってる。
……分かってるけど。
胸の奥に、何かが引っかかる。
(なんで俺は、できないんだろう)
(なんであいつらみたいに、普通にいられない?)
さっきの声が、何度も頭の中で繰り返される。
そのたびに、少しずつ重くなる。
ーーー
「なおきー、今の入れれただろ!」
「ごめんごめん!ってかパス悪いわ!」
「俺!?ごめん!」
「伸びしろ、伸びしろ!」
「シュート外したやつが俺に伸びしろ言うな!!」
「あはは」
笑い声が広がる。
同じミスのはずなのに…
なんで、あっちはあんなに軽いんだろう。
ーーー
ボールが回ってくる。
焦る。
足がもつれる。
奪われる。
「ほらー!」
また、笑い声。
(あいつら、嫌いだ)
心の中でそう思う。
……でも。
(なおきも、嫌いだ!1番苦手なタイプ)
あんなふうに笑えるのが、分からない。
飲み込まれないでいられるのが、分からない。
ーーー
「どんまい!」
なおきの声。
「惜しかったじゃん!次いこ!」
軽い。
本当に、軽い。
こっちの重さなんて、知らないみたいに
ーーー
小休憩
グラウンドの隅、、
「ゆずる、一本やろ!」
ボールが転がってくる。
「……いいよ」
受け取る!
少しだけ、間があった。
「サッカーってさ、普通に面白くない?」
なおきが笑う。
なんでそんな顔できるんだよ。
別に、うまいわけでもないのに…
ーーー
ボールを蹴る。
トラップ、少しズレる。
それでも続ける。
なおきは、何も言わない。
ただ普通にパスを出してくる。
普通に受けてくる。
(……なんなんだよ)
心の中で、何かが引っかかる。
さっきからずっと。
ーーー
試合再開。
ゆずるにボールが来る。
一瞬、迷う。
横を見る。
なおきがいる。
何も変わらない顔。
でも、目だけが言ってる。
ーーいけ。
走る。
そのまま、振り抜く。
シュート。
外れる。
⸻
一瞬の沈黙。
「おしい!」
声が飛ぶ。
笑いも混ざる。
でも、
さっきまでと、少しだけ違った。
ーーー
試合終了。
「おつかれ!」
肩を組まれる。
ぐっと、自然に。
「次は決めろよ、エース」
「誰がだよ」
気づいたら、笑ってた。
ーー
グラウンドの隅。
三つの影が、それを見ていた。
「いい顔してる」
ミニエルがにやっとする。
エルが小さく笑う。
「ほんとね」
キャワが肩をすくめた。
「きっかけなんて、あんなもんだよね」
風が、ふわりと吹く。
ーー
肩を組んだまま歩く帰り道。
さっきのプレーを思い出す。
うまくはいかなかった。
でも。
(……なんか、別にいいかって思った)
少しだけ、軽い。
隣を見る。
なおきが…いや、みんな笑っている。
いつも通り。
ーーー
「腹減ったなー!」
「それな」
「めしだめしだー」
思わず、みんな笑った。
うまくできることと、できないこと。
軽く流せることと、引っかかること。
同じ出来事でも、感じ方は人それぞれで、
それはきっと、どちらが正しいとかではありません。
ただ、
ほんの少しのきっかけで、
その重さが変わることもある。
今回の話は、そんな《小さな変化の一場面》です。
天使達の視点とはまた違う、人の側の物語として楽しんでもらえたら嬉しいです。




