太陽と月の間で…
ミニエルとの賑やかな一日を終えた翌日。
「今日は私の番」静かに、けれど確かな意志を込めて告げるその言葉。
明るく無邪気な太陽のようなミニエル。
対して、穏やかでどこか影を帯びた月のようなエル。
正反対の二人が、同じように想う気持ち。
これは――
そんな違いと同じのあいだで揺れる、少しだけ特別な一日の物語。
翌日。
「今日は私の番」
朝の準備をしながらエルが静かに言う。
そして、柔らかく微笑んだ。
「負けないから」
穏やかな声なのに、どこか本気だ。
なおきは苦笑する。
「勝負じゃないと思うんだけどなぁ…」
「勝負だよ!」
即答…
(どうしてこうなったんだろう)
なおきは心の中でため息をついた。
ーー
動物園。
休日の動物園は家族連れやカップルで賑わっていた!
「久しぶりだな」
なおきの声は、どこか弾んでいた。
園内マップを見ながら歩き出す。
距離的に近いってのもあって最初に向かったのはキリン。
なおきの好きな動物だ。
長い首がゆっくりと揺れる。
「大きいね…」
見上げるなおき。
エルも同じように空を仰ぐ。
「首、長すぎるよね」
「確かに、それ一番思うね」
思わず二人で笑った。
天気は穏やかで、風もやさしい。
騒がしすぎない空気が、心地いい。
カバが水面から大きな口を出す。
「うわ…」
なおきが少し後ろに下がる。
「怖いの?」
「びっくりしただけ」
そう言いながら、
エルの手首を軽く掴む。
その手は、少しだけ強かった。
「……ふふ」
小さく笑うエル。
(怖いのは、どっちなんだろう)
カワウソの前では足が止まった。
くるくると泳ぐ姿に、自然と頬が緩む。
「ずっと見てられるね」
「うん」
短い言葉。
でも――
繋がれたままの手のほうが、気になった。
(こういうの、好き)
動物じゃなくて。
この時間が。
そして――
隣にいるのが、なおきだから。
ーー
そのあと。
カフェ。
窓際の席。
遠くに海が見える。
「景色、いいでしょ」
少しだけ得意げに言う。
なおきは窓の外を見た。
青い海。
ゆっくり色を変えていく空。
「すごい…こんな場所あったんだ」
エルは小さく笑う。
「ミニエルが商店街を案内したって聞いたから」
「私は、少し遠くにしてみた」
「差別化?」
「戦略」
なおきは吹き出す。
運ばれてきたのはチョコケーキ。
落ち着いた見た目の、大人っぽい甘さ。
静かな時間が流れる。
ふと――
エルが指を伸ばした。
「なおき」
「ん?」
「ほっぺ」
そっとクリームを取る。
「ついてた」
そのまま口に運ぶ。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
少しの沈黙。
でも、不思議と気まずくはなかった。
ーー
夕方。
海の見える公園。
ベンチに並んで座る。
波の音。
潮の香り。
空はゆっくりオレンジに染まっていく。
「今日はどうだった?」
「楽しかったよ」
すぐに返ってくる答え。
エルは少しだけ安心する。
――でも。
(ミニエルなら)
(もっと明るくて、賑やかで)
(もっと笑わせられるのかな)
今日を振り返る。
全部楽しかった。
でも――
(私は少し、静かすぎるかも)
風が頬を撫でる。
「……ねぇ」
「ん?」
「昨日、ミニエルとデートしたんでしょ」
「うん」
「楽しかった?」
「すごく」
エルは頷く。
やっぱり、と思う。
「ミニエルってさ」
「太陽みたいだよね」
「明るくて、元気で」
少しだけ間を置く。
「私は――」
海を見る。
「月、かな…」
「静かだし」
そして、小さく笑う。
「でも、太陽ほど明るくない」
「だから」
「なおきはミニエルの方が楽しいんじゃないかなって」
なおきは少し驚いてから、笑った。
「それ、昨日ミニエルも言ってた」
「え?」
「エルの方がすごいって」
エルの目が揺れる。
「……ほんと?」
「ほんと」
なおきは肩をすくめた。
「二人とも同じこと考えてる」
しばらくの沈黙。
やがてエルは小さく笑った。
「……バカだね、私たち」
「うん」
なおきも頷く。
そして少し照れながら言った。
「僕はさ」
「太陽も好きだし、月も好きだよ」
エルが顔を上げる…
「ミニエルはミニエル」
「エルはエル」
「どっちも大切」
「比べるとか、ないから」
波の音だけが響く…
エルはしばらく何も言わなかった。
(ちゃんと見てくれてる)
(比べてない)
(それなのに――)
ふっと息を吐く。
「……そっか」
小さく呟く。
胸の奥が、少し軽くなる。
(それでも)
(少しだけ、特別になりたいって思っちゃうけど)
夕焼けが海に溶けていく。
ーー
「ていうかさ…」
なおきが急に笑い出した。
「エル、自分で私は月かな…って言ってたよね」
「は?」
エルが細い目をして振り向く。
「じゃあ私は何よ?!」
なおきは少し考えて――
「……闇?」
「はぁぁぁ?!」
一瞬で顔が変わる。
「飲み込むわよ?!」
「あはは!」
エルは頬を膨らませる。
なおきは指先に光を集めた。
夕焼けの精霊の光。
パチン、と弾く
「いてっ!」
「ちょっとやめなさいよ!」
「顔に当たってるんだけど!」
「…話は戻るけど」
「え?」
「私は月だから、ふっ!って言ってたじゃん」
「ふっ!は言ってない!」
一瞬の沈黙。
そして――
二人同時に吹き出して
2人で手を叩いて笑った
「私、例えるなら月かな…静かだし」
「どこが静かだよ!」
「あはは」
「なおき、地獄に落ちるよ?」
「いや、私が落とすわ!!」
ーー
「帰ろっか」
「うん」
立ち上がる。
「ミニエル、待ってるしね」
その言葉に、エルが頷いた
「あの子寂しがってるよきっと」
夕焼けの中を歩き出す。
静かで、でも確かに温かい…
「帰って三人でゲームしようよ」
「賛成ー」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はエルメイン回ということで、
ミニエルとは対照的な「静かなデート」を意識して書きました。
太陽と月、どちらが優れているわけでもなく、
ただ違うからこそ惹かれる関係性っていいですよね。
そして何より――
二人とも同じことで悩んでいるのが、この物語のちょっとしたポイントです。
なおきの「どっちも大切」という言葉が、
ちゃんと二人に届いていく過程も、今後描いていけたらと思っています。
もしこのお話が少しでもいいなと思っていただけたら、
ブックマークや感想をいただけると、とても励みになります!
次回はまた三人の日常か、それとも少し物語が動くのか――
ぜひ楽しみにしていてください。




