ミニエルとデート 〜世界を見せてくれた日〜
三人で過ごす、少し不思議な同居生活。
天界から来た二人――ミニエルとエル。
同じ存在でありながら、まるで違う性格の二人は、
人間の少年・なおきと一緒に日々を過ごしている。
そんなある日、
「今日は私の日!」という一言から始まった、
ちょっとしたデート争奪戦
無邪気でまっすぐなミニエルと過ごす一日。
それはただ楽しいだけじゃなく、
好きの形を、少しだけ知る時間でもあった――。
休みの朝、、
「今日は私の日だからね!」
胸を張って宣言するミニエル。
「なおきを独り占めする日!」
「なんでそんなルールになったんだよー…」
なおきは苦笑する。
エルは静かに頷いた。
「楽しんできて」
「なになにどういう展開?!」
軽くつっこむなおき。
けれどエルの目は、ほんの少しだけ真剣だった。
「明日は私」
「ふふん!負けないからね!」
――昨日の夜。
三人で楽しく話していたはずなのに。
気づけば、
「私の方がなおきと楽しい時間を過ごせる!」
「私の方が相応しい!」
なんて言い出して――
同じ心のはずなのに、
いつの間にか恋敵みたいになっていた。
(なんでこうなったんだろう…)
なおきは小さくため息をついた。
ーー
今日はミニエルとのデートだ…
飛び跳ねるように歩くミニエルせいで繋いだ手が大暴れ…
とても嬉しそうなミニエルを見るといつも癒される。
歩いて来た先はいつもの商店街
「ここね!コロッケおいしいの!」
ミニエルは迷いなく手を引く。
「うん、いつもみんなで買うよね」
ジャガイモがホクホクで牛肉の入った揚げたてのコロッケを頬張る。
サクッとした音に、ミニエルが満足そうに笑った。
「次はこっち!」
「知ってるよ、ゲーセンでしょ?」
「正解!」
テンションは最初から全開。
UFOキャッチャーに挑戦するも――
結果は、惨敗。
アームはかすめるだけで、
ぬいぐるみはびくともしない。
「なおき下手ー!」
「うるさいなぁ!」
顔を見合わせて、二人で笑う。
――やっぱり楽しい。
ミニエルといる時間は、
いつも自然に心が軽くなる。
ただ今日は――
「次あっち!」
「ほら早く!」
「ちょ、引っ張っぱらないでよ!」
完全に振り回されていた。
(散歩してる犬の気持ちってこんな感じかもな…)
ーー
商店街の裏路地。
ゴミ箱やビールケースが並ぶ細い通路を、
ミニエルは迷いなく進んでいく。
「こんな道あったんだ…」
そのとき――
にゃあ。
一匹、また一匹。
気づけば猫たちが集まってきた。
「紹介するね!」
ミニエルは得意げに笑う。
「この子はみーちゃん!こっちはボス!」
なおきはしゃがみ込んだ。
「こんにちは、なおきです」
猫たちは警戒もせず、すり寄ってくる。
「なんでこんなに僕に懐いてるの…?」
「ちゃんと伝えてあるから!」
「何を?」
「大切な人を連れてくるって!」
思わず吹き出すなおき
「いつもミニエルがお世話になってます」
と挨拶をした
猫たちに囲まれながら、
ミニエルは本当に嬉しそうだった。
そういえば初めて出会った時も、猫と一緒にいたもんなぁ…
ーー
夕方。
丘の上の公園。
並んでブランコを漕ぐ。
オレンジ色の空。
風が髪を揺らす。
「……ねぇ」
「今日、楽しかった?」
「うん。こういうデート、好きだな僕」
その一言で、
ミニエルの表情がふっと緩んだ。
「よかった」
少し間を置いて、ぽつりと続ける。
「でもさ…」
視線が揺れる。
「お姉ちゃんだったら、もっといいデート思いつくのかなって」
なおきは何も言わず、聞く。
「綺麗だし、落ち着いてるし…」
少し俯いた。
「……なおきにとって、私ってどうなのかなって」
静かな風が吹いた。
なおきは小さく息を吐く。
「ミニエル」
「うん?」
「今日って、誰のデート?」
「……え?」
「ミニエルのデートでしょ?」
こくん、と頷く。
「じゃあさ」
少しだけ笑う。
「なんでエルが出てくるの?」
言葉が止まる。
「僕はさ」
ゆっくり続ける。
「大切な人を比べたりしないよ」
ミニエルが顔を上げる。
「ミニエルはミニエル」
「エルはエル」
そして――
「今日、すごく楽しかった」
「ミニエルの好きな場所、全部教えてくれたじゃん」
「それってさ」
優しく笑う。
「ミニエルの世界を見せてもらったってことでしょ?」
その言葉に、目が少し見開かれる。
「だから」
「教えてくれた事でミニエルのこと、もっと好きになったよ」
夕焼けが、二人を包む。
しばらくの沈黙。
そして――
「……ほんと?」
「ほんと!」
ふわっと、笑顔が戻る。
「よかったぁ」
ブランコを降りたミニエルは、
ぎゅっとなおきの腕に抱きついた。
(ああ、この人――)
(ちゃんと、見てくれてるんだ)
ーー
「ねぇ!」
ミニエルが勢いよく顔を上げる。
「この景色、好きなの!私」
丘から見下ろす街。
「人も、猫も、ここでの生活も――全部!」
「なおきと、お姉ちゃんといるこの場所が大好き!」
まっすぐな目。
「……分かってくれた?」
なおきは笑った。
「うん。ちゃんと伝わった」
その笑顔に、ミニエルも満足そうに笑う。
「じゃあさ――」
ふっと空を見上げる。
「なおき、手出して!」
繋いだ手が、淡く光り始めた。
「夕焼けの今なら、精霊の力が一番綺麗に出せる」
「私の後に続いてねっ!」
小さく息を吸う。
「《天真の光華》テンシンノコウカ」とミニエルが唱えた
「……テンシンノコウカ」なおきがあとに続いた
空から光が集まる。
柔らかく、優しい光。
「イメージして」
「あの木に、優しく届ける感じ」
なおきは頷いた。
光が流れる。
――古びた老木へ。
次の瞬間。
枝に蕾、そして膨らむ…そして、桜が一斉に咲いた。
季節外れの、奇跡の桜の花
「……すごい」
思わず呟く。
ミニエルは少し誇らしげに笑う。
「それ、なおきの力だよ」
「前も話したじゃん?!なおきって《精霊の祝福》持ってるのね!」
「だから――」
少しだけ真剣な顔になる。
「《天真の光華》命の純真さを取り戻す光がきっと、必要な時が来るから…たぶん…」
「だから使えるようにしておいたよ」
「しかも詠唱だけで発動するから!感謝してよねっ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
いまいち意味がわからないのだが…
風が、優しく吹いた。
ーー
帰り道。
夕焼けが少しずつ夜に溶けていく。
(明日は、お姉ちゃんか…)
少しだけ胸がざわつく。
でも――
空を見上げて、小さく笑った。
「……お姉ちゃんも、頑張って」
その声は、どこか優しかった。
その日のニュースで季節外れの桜が満開に咲いたという話題がトレンド入り!
「ミニエル!?これアンタだよね?」
「…え?何のことですか」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回はミニエルメイン回ということで、
元気いっぱいなデートの中に、
少しだけ不安と成長を混ぜたお話になっています。
ミニエルは明るくて無邪気だけど、
ちゃんと「比べられる怖さ」や「自分でいいのか」という気持ちも持っている。
そこをなおきがちゃんと受け止めることで、
関係が一歩進んだ回になっています。
そしてラストの季節外れの桜
何気ない日常の中に、少しだけ非日常を混ぜるのがこの物語の軸なので、
ニュースでバレそうになるオチも含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回は――エルの番。
静かな彼女がどんなデートを見せてくるのか、ぜひお楽しみに。
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