風の上の昼休み
今日のお話は、少しだけ静かな昼休みの時間です。
いつも通りの屋上。
いつも通りの四人。
――のはずなのに、
ほんの少しだけ、違う風が吹いています。
キャワの過去と、今。
その間にある時間を、少しだけ感じてもらえたら嬉しいです。
この辺りから物語が動き始めます…
ーーー昼休み
「よし、今日も行くよ!」
購買のパンを片手に、なおきはいつもの階段を上っていく。
後ろから軽い足音が二つ。
週2回、昼休みの小さな習慣。
屋上手前の重たい扉を開けると――
きい、と乾いた音と一緒に、青い空と優しい風が吹き抜けた。
「お昼だぁー」
ミニエルが元気よく声を上げる。
扉の上、塔屋の1番高いところ
そこの場所がとても似合う天使が座っている
「……来たかぁ」
相変わらずキャワは、いつも通りの無表情。
でも、その視線はまたすぐに遠くの景色へ戻る。
「今日も風、気持ちいいね」とエルが上にいるキャワに言った
「うん」
短い返事。
なおき達は塔屋の隅の日向に腰を下ろし、袋を開ける。
「今日は焼きそばパンと、クリームパン」ミニエルとエルね!
なおきはカレーパンとあんぱんにした。
「おいしそうー!」
ミニエルはぺたんと座りながら目を輝かせる。
「いただきまーす」
そのまま、もぐもぐと頬張り始めた。
「んー!幸せ!」
「食べ歩きといい、よく食べるよね」
「別腹だよ!」
「便利な言葉だなぁ……」
くすっと小さく笑うエル。
その隣で、なおきはふと気づく。
「……キャワ?」
視線の先。
キャワは、パンではなく――風を見ていた。
そして、その向こうの空。
「いい匂い」
ぽつり、と呟く。
「食べる?」
なおきがパンを差し出す。
キャワは一瞬だけ見る。
そして、小さく首を横に振った。
「……大丈夫」
「遠慮してる?」
「違うよ」
少しの沈黙。
風が、ふわりと吹いた。
その瞬間。
キャワの髪が揺れて、緋色の瞳が細くなる。
「……懐かしい」
「懐かしいかぁ…」
ミニエルが言った
キャワは答えない。
ただ、遠くを見る。
優しい風。
高い場所。
見下ろす景色。
――昔も、こんな風が吹いていた。
高台。
年中、やわらかな風が止まない場所。
小さな村。
質素だけど、あたたかい建物。
「いただきまーす!」
子ども達の元気な声。
並んだお皿。
笑い声。
女神様にあげるって草で編んだ小さな鹿のお人形。
光の粒だった自分は、いつもそこにいた。
同じ時間
同じ場所
同じお昼時…
一緒に食べることは出来なくても。
その時間が、好きだった。
とても、好きだった。
「……お昼の時間」
小さく、キャワが呟く。
「好き」
なおきの手が止まる。
「昔も、みんなで食べていたから」
静かな声だった。
説明も、感情の起伏もない。
なのに、どこか遠い。
風がまた吹く。
一瞬だけ――
赤い空。
焼ける煤の匂い。
消えてしまった笑い声。
女神にあげるはずの半分焦げだ鹿のお人形。
そして。
黒く静まり返った村。
「……」
キャワの指先が、わずかに握られる。
「キャワ?」
「……なんでもないよ」
すぐに、いつもの声に戻る。
でも、視線はまだ遠くのまま。
「一緒に食べないの?」とミニエル。
少しの間。
そして。
「一緒にいるだけで、十分」
柔らかい風が吹き抜ける。
エルは、何も言わなかった。
ただ静かに、キャワのことを見守った
同じように、遠くの景色を見る。
「……似てるの?」
ぽつり、とエル。
キャワはほんの少しだけ目を細めた。
「優しい風の吹く、高い場所」
それだけ言って、また黙る。
なおきはパンを一口かじりながら、空を見上げた。
いつもと同じ昼休み
いつもと同じ屋上
いつもと同じ四人
なのに。
今日の風は、どこか少しだけ静かだった。
「キャワ」
「なに?」
「明日も、ここで食べるよ」となおきが言った
キャワは一瞬だけ驚いた顔をして――
そして、少しだけ微笑む。
「うん!」
その笑顔は、風に溶けるくらい小さくて。
でも確かに、そこにあった。
遠くの景色を見ながら、キャワは静かに目を閉じる。
一緒にいる、この時間が――
いちばん、好きだった。
塔屋に吹く優しい風は、
まるで昔の高台のように、
変わらず四人を包んでいた。
――そしてキャワだけが、
ずっと遠くの景色を見ていた。
チャイムが鳴った
「あ!ごめん、キャワ!!」
なおきは塔屋の上へ向かって、袋を軽く放り投げた。
「これ、キャワのカレーパンとあんぱん!」
ふわりと弧を描いた袋を、
キャワは少し驚いたように――
胸元でしっかり受け止めた。
「…落とさないようにね」
「あ、うん!」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
この回ぐらいからギアが一段上がります!一章と同じで序盤ゆっくりな【私見えてます?】ですが、だんだんピッチ早まります。
今回はキャワの好きな時間と、その理由のお話でした。
一緒にいるだけでいい、という距離感。
でもその裏には、失ったものや、戻らない時間もあって…
普段あまり語られないキャワの一面を、少しだけ描いてみました。
そして、なおきのさりげない優しさも、実はかなり大事なポイントだったりします。
この日常が、どこまで続くのか。
少しずつ変わっていく関係も、これから見守ってもらえたら嬉しいです。
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