夕焼けの充電
商店街での食べ歩きを満喫した三人。
お腹も心も満たされた帰り道、
立ち寄った小さな公園で、少しだけ休憩することに。
夕焼けの中、
何気ない時間と、何気ない距離が――
ほんの少しだけ変わっていきます。
商店街の外れにある、小さな公園。
コンクリートで作られたなぜかピンク色の富士山みたいな山型の滑り台のてっぺんに腰を下ろした瞬間――
「……はぁ」
三人同時に、小さく息をついた。
夕方の柔らかい光。
さっきまでの賑やかな声が、少し遠くに聞こえる。
「いっぱい食べたぁ……」
ミニエルはぺたんと座り込み、お腹をさする。
「焼き小籠包……チュロス……唐揚げ……大福……」
「全部全力だったね」
「短剣チュロスもあった」
「あれね」
くすくすと笑い声が重なる。
食べ歩きの余韻が、まだ身体の中に残っていた。
その隣で――
「……」
「エル?」
「……少し」
ぽす。
なおきの肩に、軽い重みが乗る。
「……休憩」
あまりにも自然で、気づいた時にはもう頭を預けられていた。
「満腹になると、力が抜けるね」
「さっきまで口から火出そうって言ってた人が?」
「それは不可抗力」
むに、と頬が少しだけ押し付けられる。
「あったかい……」
「エル、完全に甘えモードだ」
「違う」
即答。
でも、離れない。
「ただ、なおきの隣が落ち着くだけだもん」
そう言いながら、そっと袖を掴む。
小さな力なのに、やけに温度だけが伝わる。
「今日は、たくさん歩いたね」
「歩いた歩いた!」
「本当だ」
「たくさん食べたね」
「うんうん!」
そして、ぽつりと。
「……楽しかったぁ」
夕方の風がふわりと吹く。
エルの髪が揺れて、肩にさらりと触れた。
「なおきと、ミニエルと一緒」
どくん、と心臓が跳ねる。
「……それで」
「うん?」
ぐり、と少しだけ頭を預け直してくる。
さっきより、ほんの少し近い。
「少しだけ、充電させて?」
「充電?」
その瞬間。
「じゃあ私も充電!」
反対側から、ミニエルがぴとっと腕にくっついた。
「両側!?」
「なおき、あったかい」
「なおきは暖房」
左右からくっつかれて、完全に動けない。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ――落ち着く。
しばらく、静かな時間が流れた。
商店街のざわめき。
夕方の空気。
そして、隣のぬくもり。
「……なおき」
小さな声。
「ん?」
目を閉じたまま、エルが呟く。
「さっきの」
「さっきの?」
「キスすると治る、の話」
「まだ言うのそれ……」
くす、と肩越しに小さく笑う気配。
「……まだ完治してないもん」
「えーー!?」
「医学的検証です」
「あはは……」
ほんの一拍の沈黙。
夕焼けに染まるあさぎ色の瞳が、ゆっくりこちらを見上げる。
袖は、まだきゅっと掴まれたまま。
逃げ道を塞ぐみたいに。
「……なおき」
静かな声。
そして――
なおきは小さく息を吐いた。
ほんの一瞬。
触れるだけの、静かな温度。
「……っ」
エルの顔が一気に赤くなる。
さっきまで余裕だったのに、完全に固まっていた。
「……なおき」
耳まで真っ赤なまま、唇にそっと触れる。
「本当にするとは思わなかった……」
「それ言い出したのエルじゃん」
数秒の沈黙。
そして。
ふわりと、柔らかく微笑む。
「治りました!!」
再び、こてんと肩に頭を預ける。
さっきより、ずっと安心しきった様子で。
「なおきのキスは、効果抜群でした」
「言わないで…」
「見ちゃった!!」
「見られちゃった」
ミニエルが目をきらきらさせている。
「尊い……」
「何その感想!?」
エルはくすっと笑いながら、袖をぎゅっと握ったまま。
「……なおき」
「ん?」
「次の食べ歩きも」
目を閉じたまま、静かな声で。
「三人で来ようね」
「もちろん」
即答だった。
「約束!」
「約束!」
「約束!」
夕暮れの公園。
コンクリートの富士山のてっぺんで、
満腹と、安心と、少しだけ早い鼓動。
なおきの両側で寄り添う二人は、
さっきよりもずっと静かで――やわらかかった。
「……そういえば」
なおきがぽつりと呟く。
「キャワ、何してるんだろ」
一瞬だけ、エルの視線が遠くの空へ向いた。
「……どうかな」
夕焼けを見つめたまま、静かに言う。
「こういう日は――
高いところから街を見てる気がする」
「……あの子はそうだねー」
ミニエルも同じ方向を見上げる。
遠くの空。
少し寂しそうな、優しい色。
「ふーん……?」
なおきはそれ以上、深く聞かなかった。
夕焼けの風だけが、静かに吹いていた。
その時の三人は、まだ知らない。
同じ夕焼けを――
学校の屋上から、静かに見つめている少女がいることを
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は「日常の延長にある特別な一瞬」を意識して書きました。
エルの甘えモードと、なおきの決意(?)が見どころです。
そして最後には、少しだけ不穏(?)な気配も――。
物語はここからまた少し動き出します。
「いいな」「続き気になる」と思っていただけたら、
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次回もぜひよろしくお願いします!




