初めての食べ歩き
今回はちょっとした日常回、三人ではじめての食べ歩きです!
バトルやシリアスとは違って、こういう何気ない時間こそ
なおきたちの距離感や関係性が一番よく見えるなぁと思いながら書きました。
ミニエルの無邪気さ、エルのちょっと大人っぽいイタズラ、
そして振り回されるなおき。
三人の空気感を、ゆるっと楽しんでもらえたら嬉しいです!
「今日はバイトも無いし、学校も休みだから――商店街で食べ歩きしようか?」
「いえーい!!」
「やったぁー!!」
声を揃えてはしゃぐミニエルとエル。
その勢いのままに、気づけば三人は手を繋いで家を出ていた。
まだお昼前。
朝ご飯を抜いてきた三人のお腹はぺこぺこだ。
「この時間から商店街に出かけるの、なんか久しぶりだね」
普段の買い物は夕方が多い。
柔らかい昼の光に包まれた商店街は、どこか新鮮に見えた。
ふと、懐かしさが胸をくすぐる。
「……なんか、一年前を思い出すね」
「一年前?」
ミニエルがきょとんと首を傾げる。
「うん。商店街の隅っこにミニエルが座っててさ。
何? あの子、って思ったんだよなぁ」
「それから?」
ぐいっと顔を近づけるミニエル。
上目遣いで、期待の眼差し。
「それから……あ、猫もいるなぁって思って」
「それから?」
「可愛い子がいるなーって……言わされた気もするけど」
ミニエルの表情がぱっと明るくなる。
思わず、なおきは頭を撫でた。
「えへへ……」
撫でられるとすぐに嬉しそうに目を細める。
本当に分かりやすい。
ちら、と横を見ると――
エルがほんの少しだけ羨ましそうにこちらを見ていた。
「……エルもしてほしいの?」
「べ、別に?」
ぷいっとそっぽを向く。
でも、ほっぺはしっかり膨らんでいる。
「はいはい、いい子いい子」
そっと頭を撫でると、
「……っ」
一瞬だけ目を見開いて、
すぐにふわっと表情が緩んだ。
「……えへ」
小さく漏れた声が、やけに優しい。
歩きながら、自然と笑みがこぼれる。
「本当さ。あの時出会えて、今こんなに幸せになるなんて思わなかったな」
二人が同時にこちらを見る。
「ありがとね。二人のおかげで、いろんなこと頑張れるようになったし」
「例えば?」
エルがくすっと笑いながら聞いてくる。
少しだけ視線を逸らして、
「私に告白した時の勇気、とか?」
「――っ!?」
「わぁー!!」
「あー!! ずるー、エルそれ今言うかなぁー!!」
自分で言いながら顔を真っ赤にしたエルが、勢いよく抱きついてくる。
「ずるくないもん、事実だもん」
満足そうに頬を寄せてくるエル。
完全に楽しんでいる。
その様子を見て、ミニエルがくすくす笑った。
何気に一番落ち着いているのは、ミニエルかもしれない。
「それより!」
ぐいっと袖を掴まれる。
「なおき、食べ歩きってしたことあるの?」
「いや、実は無いんだよね」
「えぇー!? 人生損してるよ!」
「ってか、ミニエルもないでしょ」
「でも本当、さっきからずっとお腹鳴ってるよー!」
ぴょん、ぴょん、と。
繋いでいる手のままミニエルが嬉しそうに跳ねる。
「なおきって、ちょっといい話した後すぐお腹空くよね」
エルが呆れたように微笑む。
「あはは……確かに」
ぐぅぅぅ……。
ちょうどそのタイミングで、お腹が鳴った。
一瞬の沈黙。
「鳴ったー!!」
「鳴ったね」
「……聞こえた?」
「ばっちり」
三人で顔を見合わせて、同時に吹き出した。
漂ってくる揚げ物の香り。
焼きたての甘い匂い。
賑やかな人の声。
「さて」
なおきは二人の手を軽く握り直す。
「はじめての食べ歩き、何から行こうか?」
「コロッケ!!」
「クレープも気になるね!」
「……最初から全力だね!?」
そんな他愛もない会話をしながら、
三人の食べ歩きは、わくわくと一緒に始まった。
⸻
じゅわぁぁぁ……
鉄板の上で音を立てる丸いそれに、三人の視線は一瞬で奪われた。
「なにこれ……!」
「…焼き小籠包?!」
「美味しそう!!」
湯気。香ばしい香り。じゅうじゅうという音。
「最初はこれだね」
「賛成!」
「三つお願いします」
受け取った焼き小籠包は、紙カップ入り。
表面はこんがりきつね色、底はパリパリ。
上からは湯気が立ち上っている。
「絶対熱いやつじゃん」
「ふーふーすれば大丈夫よ」
エルが妙に余裕な顔で言う。
「エル、猫舌じゃなかったっけ?」
「子ども扱いしないで」
少しむっとした顔。
そのまま、なおきが止める間もなく――
ガブ!
ブシャ!!
一瞬の静寂。
「――あつ!」
エルの目が大きく見開かれる。
ほっぺがぷるぷる震えている。
「……エル?」
「熱っ……! あつ……っ!」
「だから言ったじゃん!!」
慌ててなおきがティッシュを差し出す。
「……唇、赤くなってる」
「え?」
下唇がほんのり赤く、少しだけ腫れていた。
「ちょっと見せて」
「だ、大丈夫だよ……」
「全然大丈夫じゃない」
自然と顔が近づく。
エルが固まる。
なおきは親指でそっと下唇に触れた。
「……あ」
「ほんとだ。やけどしてる」
「な、なおき……近いんだけど」
「え?」
「わー!なんかドキドキ空間!」
「ミニエルちょっとうるさい!」
そしてエルは、少しだけ視線を上げる。
「ねえねえ!?」
「冷ますの、手伝ってくれる?」
結局エルはいつも甘えてくる
「めんどくさいなぁー」
と言いながらも、なおきは紙カップを受け取り今度は丁寧にふーふーと冷ました
「ほら。今度はちゃんと冷めたよ」
「……」
エルはじっと見つめる。
ぱく。
「……おいしい」
さっきよりも、ずっと柔らかい声。
「気をつけなよ。火傷するから」
ミニエルがなんだか怒っている
「なおきがエルを甘やかすから」
「僕のせい!?」
「じゃあ私はふーしないで食べる!」
「やめな!?」
「あつぅぅぅぅ!!」
結局、ミニエルも涙目。
三人の笑い声が屋台の前に広がった。
(他の人には男の子が1人で笑っているような異様な光景…)
エルはそっと唇に触れながら、なおきを見る。
「……ちょっとだけ、嬉しかった」
「なにが?」
「内緒!」
ほんの少し赤い唇が、やわらかく笑う。
「なおき」
「はい?」
少しだけ距離が近づく。
「キスすると治るって、知ってた?」
「――は?」
「唇のやけどって、キスすると治るらしいよ?」
とても綺麗な笑顔。
でも、目だけが完全に悪戯している。
「ちょっ……エル!?」
ミニエルの目がきらっきらに輝く。
空気が、一瞬で変わった。
「ふふ、慌てすぎ」
エルはくすっと笑いながら、なおきの服の裾をすっと掴む。
「なおきが冷ましてくれた時、少し楽になったよ」
「それはふーしたからで――」
「じゃあ」
顔が、さらに近い。
「もっと楽になるかも?」
「エル!?」
「なおきどうするの!?するの!?しないの!?」
「……」
「しません!!」
「ぷっ!!」
三人同時に吹き出した。
なおきの顔は真っ赤。
それを見て、エルは満足そうに微笑む。
「唇、治ったよ!」
「何この人、からかってんな!!」
「からかってないよ。観察」
「えへへー」
ミニエルは二人を交互に見て、にやにやしている。
「ねぇねぇ! 次はなに食べるの!?」
「話変えるの早っ!」
「だってお腹すいたもん!」
ぐぅぅぅ……。
絶妙なタイミングでミニエルのお腹が鳴る。
また三人で顔を見合わせて、笑った。
「……よし」
なおきは深呼吸をして、改めて二人の手を握り直す。
「次行くよー!」
「おー!」
商店街の賑わいの中。
笑い声と、甘くて少しだけ危険な空気を連れて。
三人の食べ歩きは、まだまだ続く――。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
焼き小籠包のシーン、個人的にかなりお気に入りです。エルのちょっとした“攻め”と、なおきの全力回避(笑)
こういうやり取りを書いていると、「あぁ、この三人いいなぁ」って改めて思います。
あと地味に、ミニエルが一番バランス取ってる説ありますね。
このあとも食べ歩きは続くので、次回はまた違った“美味しい+事件”になるかも…?
よければブックマークや感想で応援していただけると、めちゃくちゃ励みになります!
それではまた次回よろしくお願いします。




