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屋上の鍵とカレーパン

日常の中に、少しだけ特別な時間がある。


それは、誰にも言っていない秘密だったり、

ほんの些細なきっかけだったりする。


今回は、そんな「小さなきっかけ」から始まるお話です。


屋上の鍵と、カレーパン。

それだけで変わる距離も、きっとある。


そして――

少しだけ、誰かの気持ちが揺れる回でもあります。


どうぞ、ゆっくりお楽しみください。



「行ってきます」


玄関で靴を履きながら手を振る。


「いってらっしゃい!」

「いってらっしゃい、なおき」


元気なミニエルの声と、少し落ち着いたエルの声が重なった。


いつものように、見送りに来た二人の頭をぽんぽんと撫でて、軽くハグする。


ドアに手をかけて――

ふと、思い出したように振り返る。


「あ!エル?」


「なに?」


「屋上の鍵、貸してくれないかなぁ」


「……うん、いいよ」


特に疑う様子もなく、エルは鍵を差し出した。


「どうしたの?」


「ちょっと用事思い出してさ」


「あ、そうなんだねっ」


あっさりと渡したものの、扉が閉まったあと。

エルの視線は、鍵がなくなった手元に残ったままだった。


「……」


そわそわ。


「お姉ちゃん、気になるならちゃんと聞けばよかったのに」


「だ、だって……! 何て聞いていいか分かんなかったんだもん!」


モジモジしている


「お姉ちゃん子供かよ」


「うるさい!!」


ミニエルはくすっと笑い、エルは頬を膨らませる。


けれど――


ミニエルも目がキョロキョロ…


二人とも、どこか落ち着かない様子で窓の外を見ていた。


ーーー


ガチャ。


昼休み。

なおきは屋上に来ていた。


やさしい風が吹き抜ける、いつもの場所。


そして――

塔屋の上。


今日も、ぽつんと一人。


銀色の長い髪が風に揺れる



「キャワー」


声をかけると、びくっと肩が揺れた。


「こっち、降りておいでよ」


袋を掲げる。


「ほら。カレーパンとハムサンド」


「……!」


きらっと目が輝く。

けれどすぐに、遠慮したように小さくなる。


「それぞれ一つずつ食べられるから、どうぞ」


「……あ、う、うん!」


ぴょん、と軽やかに降りてくる。

着地したあとも、落ち着かない様子で編み込みをぐりぐりと触っていた。


「キャワの髪、銀色ですごく綺麗だね。瞳も赤くて綺麗だし……羽も大きくて、やっぱり天使ってすごいなぁ」


一瞬瞳の奥が深いところで暗くなった気がした…


「あ、あ、ありがとう……」


照れたように、編み込みを少し引っ張る。


「いただきまーす!」


「…いただきます」


カレーパンをパクッ


「……どう?」


「……うん! おいしい!!」


ぱあっと顔が明るくなる。


なおきは少しだけ笑った。



「昨日さ。本当はもっと食べたかったでしょ」


「うわぁ!? 見てたかぁ、 恥ずかしいなぁ」


「分かるよ」


「うぅ……観測してただけで……」


「うそ、食べたかった、本当は…」

キャワは白状した!


小さく俯いて笑うキャワに、なおきは自然に言う。


「これからはさ、どうせここにいるんなら僕らと一緒に食べようよ」


一瞬。

キャワの手が止まった。


「……ありがとう」


小さく、でもはっきりとした声。


「嬉しい。美味しいパンも……キャワって呼んでくれたことも」


そして、少しだけ照れながら。


「っていうか、私、人の食べ物を食べたの、カレーパンが初めてで……今まで食べた中で一番好きかも」


「カレーパンが!?」


なおきの目が輝く。


「やった!そんな素晴らしい事に立ち会えたの僕!」


「あはは……なおき、面白いね」


「キャワ、笑ってくれてありがとう!」


「え? なんで?」


「なんとなく!」


「……えへへ。私こそ、お昼一緒に食べてくれてありがとう」


ーーー


少し離れた場所。

塔屋の影。


「……お姉ちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫よ…」


「キャワ嬉しそうだもんね」


ミニエルがにこっと笑う。


「今回はキャワになおきを貸してあげる!」


「お姉ちゃん優しいじゃん!!」


「でしょ!! 私は優しいの!!」



そう言いながら――

エルの手は、わずかに震えていた。


ミニエルの目も、実はほんの少しだけ潤んでいる。


ーーー


「じゃ、僕午後の授業あるから行くよ!」


立ち上がり、手を振る。


「またご飯、一緒に食べようね」


「……あ、うん!」


キャワは少し慌てて頷いた。


「ありがとう、私でよければ……」


なおきは笑って手を振り、校舎へ戻っていく。

その後ろ姿が見えなくなるまで、キャワはじっと見送っていた。


そして――

大きく息を吸う。


「はぁ……」


空に向かって、静かに深呼吸。



「エル達、いるんでしょ?!」


「……あ、バレたか」


「バレるよ、そんなの」


ひょこっと姿を現す二人。


キャワの隣に、静かに腰を下ろした。


「編み込み、直してあげる」


「……うん」


優しく髪を整えるミニエル。


「照れて編み込み触りすぎだよ」


「あはは」


「久しぶりだね」


「……そうだね」


「毎日、私がキャワの編み込みしてたから」


「うん……」


少しだけ懐かしそうに目を細める。


ミニエルがにやっと笑う。


「なおき、いい人でしょ!?」


「うん、とっても!!」


即答だった。


ぽつりと、キャワが呟く。


「私……好きになっちゃうかもー」


「編み込みちぎるよ!!」


「命吸うわよ!!」


両サイドから同時に飛んできた本音。


一瞬の沈黙のあと。


「あはは、怖い怖い怖い!!」


三人の笑い声が、屋上にやさしく広がる。



そしてその笑いの中に――

ほんの少しだけ


新しい居場所の、あたたかさが混ざっていた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


今回はキャワとの距離が一気に縮まる回でした。

カレーパンがはじめての味になるシーン、書いててかなりお気に入りです。


そして裏では――

エルとミニエルの、ちょっと複雑な気持ちもちらり


この作品、ほんわかしてるだけじゃなくて、

ちゃんと「心の揺れ」も積み重ねていくので、

そこも楽しんでもらえたら嬉しいです。


もし少しでも「いいな」と思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです


次回も、また少しだけ関係が動くかも…?


引き続き、よろしくお願いします!


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