もう一人加わってのランチ
いつもの三人の昼休み。
――のはずが、
今日は少しだけ違うみたいです。
屋上ランチに、もう一人。
ちょっと距離のある天使が加わった、
いつもより少しだけにぎやかな時間をお楽しみください。
朝。
「学校、行ってきまーす!」
玄関の扉を開けると同時に、
ぱたぱたと軽い足音が二つ。
「行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃい、なおき」
元気なミニエルと、少し落ち着いたエルの声。
見送りに玄関まで来るのが、いつの間にか二人の習慣になっていた。
そして――
「はいはい」
なおきはしゃがみ込み、
二人の頭を順番にいい子いい子する。
「えへへ」
「……子ども扱いしないで」
と言いながらも、
エルはほんの少しだけ目を細めている。
最後に、軽くハグ。
これが3人の毎朝の日課だ。
「お昼に行くから」
「うん!」
「あ、今日火曜日か」
火曜と水曜。
その二日だけは、
“学校の屋上でパンを食べる日”になっている。
体育や移動教室の関係で毎日は無理――
という、謎に現実的な理由からだ。
「楽しみ〜!私ハムカツ!!」
「私はカレーパンかな」
「あ、僕も今日はカレーパンにしようかな?」
「……エルと一緒だね」
そう言った瞬間。
エルの耳が、じわっと赤くなる。
分かりやすい。
なおきが、ぷにっとほっぺをつつくと――
「もう!!」
ほっぺを膨らませて抗議。
「お姉ちゃんそんな事で照れてる!あはは!」
「うるさい、ミニエル!!」
そんなやり取りに、思わず笑いながら、
なおきは学校へ向かった。
昼休み前。
「なあ!なおき、お前さ」
友達が首を傾げる。
「パンを買いに行った後どこで食ってんだよ?」
「え? 外だよ外」
「外ってどこだよ」
「渡り廊下の階段とか?」
適当なことを言ってごまかす…
まさか、
立ち入り禁止の屋上で、
“見えない同居人”と三人ランチしてます、
なんて言えるわけがない。
(今日も頑張らないと……)
人気のパンは、争奪戦!!
心の中で呟く。
(エル? 分かってるね)
「愚問ね」
(ミニエル?)
「愚問ね!」
「あはは! エルの真似!」
「無理してお姉さんぶってるからね」
「どれだけ一緒に暮らしてるんだよーエル無理すんなよー」
「……何を言ってるか分からないわ」
少しだけ口元が緩んでいるのは、
なおきだけが知っている。
キーンコーンカーンコーン。
「僕らもスタートダッシュ早くなったよね!!」
数分後。
三人(なおき一人+見えない二人)は、
戦利品を前にうっとりしていた。
カレーパン 2
ハムカツ 2
ミックスサンド 2
「ふふ……余裕ですな」
「はいミニエル。ハムカツとミックスサンド」
「やったぁ!! 風起こした甲斐があった!!」
ぱん!
空中ハイタッチ(なおきには見える)。
「はいエル。カレーパンとハムカツ」
「……やった」
一瞬だけ、
年相応に無邪気な表情がこぼれる。
こういう時だけ、
本来の可愛さが素直に出るのがエルらしい。
「僕はカレーパンとミックスサンド!」
屋上の隅。
塔屋の影に三人で並んで座るこの時間は、
すっかり学校生活の楽しみの一つになっていた。
風が気持ちいい。
少し高い空。
そして、三人分のパンの匂い。
「ん?」
ミニエルが、ぴょこんと顔を上げる。
「塔屋の上にキャワ?」
「あ、本当だ」
銀髪に緋色の瞳。
こちらをちらちらと見ている、
どこかよそよそしい天使――ミカエル。
通称、キャワエル。
「キャワー! こっちおいでよー!」
「……あー、うん」
ふわっと軽く降りてくる。
着地は妙にぎこちない。
(絶対食べたいんだろうな……)
視線が、
明らかにカレーパンに向いている。
「食べる?」
「えっ、いや、その……ありがとう。でも大丈夫」そう言いながら、無意識に編み込みを指先でいじる。
遠慮している。
けど、視線はパンから離れない。
なおきは無言で、
カレーパンを半分にちぎって差し出した。
「はい」
「……あ、よかったのに……ありがとう」
一口。
ぱく。
「――っ!?」
一瞬、目がかっと見開く。
すぐに平静を装うが、
明らかに衝撃を受けている。
「……美味しい…ありがとう」
声だけはやけに真面目だった。
「でしょー! なおき優しいんだよ!」
ミニエルが胸を張る。
エルはじっとキャワを観察している。
「なおき、いい人でしょ?」
期待の眼差し。
エルも、
無言でキャワの返答を待っている。
「え? なにが?」
「いい人かどうか!!」
「あ、うん。いい人だね」
その瞬間。
エルの眉がぴくり。
「……は? あんた、命吸うわよ?」
「怖いわ!!」
「冗談よ」
即答の低音。
キャワが一歩引く。
ミニエルは大爆笑。
「あははは!! お姉ちゃんこわーい!!」
風がふわっと吹く屋上。
パンを食べて、
くだらないことで笑って、
少しだけ騒がしくて。
キャワも、少し距離を残したまま、輪の中に座っていた。
「……学校のお昼って、こういう感じなんだ」
ぽつりと呟く。
「楽しいでしょ?」
「……うん」
素直な返事だった。
ーーー
その頃、
なおきはもう教室へ戻っていて、
午後の授業を受けている。
屋上に残った三人
「なおき、いい人でしょ?」
ミニエルがもう一度聞く。
キャワは少しだけ空を見上げてから、
静かに答えた。
「……うん。そうだね」
そう言いながら、編み込みを指先で静かにいじっていた。
エルは何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ、
優しく目を細めていた。
――そして屋上には、
今日も変わらない、
あたたかな昼の時間が流れていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回はキャワエルも加わって、
いつもよりちょっとにぎやかな屋上ランチでした。
こうやって少しずつ関係が変わっていくの、書いてて楽しいですね。
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これからもこの3人+1人の日常をお楽しみください。




