1700歳のパンケーキ
人に見えない存在が、もし自分にだけ見えたら。
それは呪いでしょうか。
それとも――奇跡でしょうか。
これは、神様に堕とされた堕天使と、
どこにでもいる普通の少年が、
パンケーキを分け合うところから物語が動き出します
甘くて、少しだけ切ない。
そんな日常の1ページ
「天使じゃなくて堕天使ね!」
そう訂正しながらも、とても嬉しそう!
エルはメニューに顔を寄せ、真剣な表情で写真を見つめる。
指先でデザートをなぞりながら、うっとりとため息をついた。
「うーん……どうしよう……全部おいしそう……。あ、いちごいっぱいのも食べてみたいし、あっちの白いふわふわのも……」
散々迷った末、ひとつを指さす。
「……これ可愛い!これがいい。食べてみたい」
山盛りの苺とさくらんぼが乗ったミルフィーユ風パンケーキ。
「じゃ、これにしようか!」
注文を済ませると、エルはそのやり取りをじっと見ていた。
「……やっぱり、見えてないんだなー」
ぽつり、と小さな声。
椅子に腰掛けると、体はふわりと浮いたまま。
それでも足をぷらぷらさせて待っている。
放っておけなくて、思わず頭を撫でた。
「ひゃっ……!?」
びくりと震え、顔が真っ赤になる。
「な、なにするの……急に……」
振り払わない。
むしろ、そっと目を細める。
「撫でられるとうれしいかな、と思って」
「僕は撫でられたことないけどね…」
「私と一緒だ!あ、私いま撫でられたか」
「あはは」
「私…ずっとここに居られるのかなぁ…」
不安そうな声。
「僕しかエルが見えないんだし、帰る時が来るまでいればいい…」
と言いながら、なんか少し照れた…
そんなお喋りをしていると、そこへパンケーキが運ばれてきた。
「うわぁー」
「 すごいすごい何これ、綺麗で可愛い建物みたいだよ!」
「そういう表現は新鮮だなぁー」
「確かにそう見えるね!」
「どう?食べてみる?」
「うん!食べる食べる」
「はい、どうぞ。口開けてー」
イチゴとクリームとバランスよく乗せた美味しそうに整えられたフォークを差し出す。
「え……えええっ!?食べろって?!!」
真っ赤になるエル。
「そ、そんなの恥ずかしいよ……!」
「だって、ナイフとフォークワンセットしかないし…この位置何気に後ろの席から見えるから宙に浮いたナイフとフォークやばくない?」
「だから気にしないで!?」
「食べさせてあげます」
「……ほんとに?」
頷くと、おずおずと口を開けた。
何となく食べさせられるのに少し抵抗感を示していた彼女だったが、ひとくち食べた瞬間、目が見開かれる。
「どう? 美味しい?」
「……おいし……い……!」
さっきまでの恥じらいは消え、夢中で頬張る。
「もっと! もっと食べたい!」
「もちろん」
つい声が大きくなり、周囲の視線を感じる。
エルは小声で笑った。
「……いっぱい喋っても、いいんだ?」
「いいよ。エルの声、僕にしか聞こえないし」
その言葉に、ほっとしたように笑う。
「なおきが普通にしてくれるから、私、堂々としてられるよ」
――
ほとんどエルが平らげた。
「満足した?」
「うん! 人生で一番おいしかった!」
けれど、すぐに真剣な顔になる。
「ねぇ、なおき。……私、本当どうしたらいいんだろう?」
「一人ってこんなにも寂しいって実感した」
潤んだ瞳が曇った
「まあ、とりあえず一緒にいればいいよ?!」
そういうと、彼女の震える小さな手をみた
「見た目は妹みたいだけどさ。……何歳?」
「……1700歳は超えてる。だから、お姉さん」
少し拗ねる。
「でも設定はなおきのほうが年上なんだからね!」
「何の設定だよ」と笑った
「エルお姉ちゃんって呼ぼうかな」
「はぁ!? やめて!」
真っ赤になって立ち上がる。
「もう知らない! 帰る!」
ぷいっと歩き出す。
「あはは、ごめんごめん」
「じゃ、帰るよー」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
堕天使エル、人生(?)初パンケーキ回でした。
天界では味わえなかった「甘さ」と「誰かと一緒にいる時間」
なおきにとっても、きっと同じくらい特別な瞬間だったと思います
見えない存在‥きっと楽しいだけじゃないはずです
それでも二人は、同じテーブルで笑いました
この先、
エルは本当にこの世界に居ていいのか
なおきとの出会いは「奇跡」なのか
ゆっくり進んでいく物語になりますが、
見守っていただけたら嬉しいです!
読んでいただけることがとても励みになります
次回もよろしくお願いします。




