1700歳のパンケーキ
人に見えない存在が、もし自分にだけ見えたら。
それは呪いでしょうか。
それとも――奇跡でしょうか。
これは、神様に堕とされた堕天使と、
どこにでもいる普通の少年が、
パンケーキを分け合うところから物語が動き出します
甘くて、少しだけ切ない。
そんな日常の1ページ
「天使じゃなくて堕天使ね」
そう訂正しながらも、声は弾んでいる。
エルはメニューに顔を寄せ、真剣な表情で写真を見つめる。
指先でデザートをなぞりながら、うっとりとため息をついた。
「うーん……どうしよう……全部おいしそう……。あ、いちごいっぱいのもいいし、あっちの白いふわふわのも……」
散々迷った末、ひとつを指さす。
「……これ。これがいい。食べてみたい」
山盛りの苺とさくらんぼが乗ったミルフィーユ風パンケーキ。
「じゃ、これにしよ」
注文を済ませると、エルはそのやり取りをじっと見ていた。
……やっぱり、見えてないんだね。
ぽつり、と小さな声。
椅子に腰掛けると、体はふわりと浮いたまま。
それでも足をぷらぷらさせて待っている。
放っておけなくて、思わず頭を撫でた。
「ひゃっ……!?」
びくりと震え、顔が真っ赤になる。
「な、なにするの……急に……」
振り払わない。
むしろ、そっと目を細める。
――撫でられるの、初めてなのか。
「僕もだけど」
小さく呟くと、エルがじっと見つめてきた。
「私……ずっとここにいられないかも……」
不安そうな声。
「僕しかエルが見えないんだよ? それだけでもう奇跡じゃん」
言いながら、自分でも少し照れる。
「……奇跡、なのかな」
その時、パンケーキが運ばれてきた。
「うん……! 食べる! お腹すいた!!」
――
「はい、どうぞ。口開けてー」
フォークを差し出す。
「え……えええっ!?」
真っ赤になるエル。
「そ、そんなの恥ずかしい……!」
「誰も見てないよ」
その一言に、少しだけ安心した顔。
「……ほんとに?」
頷くと、おずおずと口を開けた。
「どう? 美味しい?」
ひとくち食べた瞬間、目が見開かれる。
「……おいし……い……!」
さっきまでの恥じらいは消え、夢中で頬張る。
「もっと! もっと食べたい!」
「もちろん」
つい声が大きくなり、周囲の視線を感じる。
エルは小声で笑った。
「……いっぱい喋っても、いいんだ?」
「いいよ。エルの声、僕にしか聞こえないし」
その言葉に、ほっとしたように笑う。
「なおきが普通にしてくれるから、私、堂々としてられるよ」
――
ほとんどエルが平らげた。
「満足した?」
「うん! 人生で一番おいしかった!」
けれど、すぐに真剣な顔になる。
「ねぇ、なおき。……私、どうしたらいいの?」
行き先なんてない、と。
一人は寂しい、と。
潤んだ瞳で見つめてくる。
「嫌なわけないよ。一緒にいればいい」
震える小さな手を握る。
「見た目は妹みたいだけどさ。……何歳?」
「……1700歳は超えてる。でも見た目は14歳くらい。だから、お姉さん」
少し拗ねる。
「なおきのほうが年上なんだからね!」
繋いだ手に力を込める。
「エルお姉ちゃんって呼ぼうかな」
「はぁ!? やめて!」
真っ赤になって立ち上がる。
「もう知らない! 帰る!」
ぷいっと歩き出す。
じゃお家帰ろっか!
これからは僕とエルの家だ
ここまで読んでくださってありがとうございます。
堕天使エル、人生(?)初パンケーキ回でした。
天界では味わえなかった「甘さ」と「誰かと一緒にいる時間」
なおきにとっても、きっと同じくらい特別な瞬間だったと思います
見えない存在‥きっと楽しいだけじゃないはずです
それでも二人は、同じテーブルで笑いました
この先、
エルは本当にこの世界に居ていいのか
なおきとの出会いは「奇跡」なのか
ゆっくり進んでいく物語になりますが、
見守っていただけたら嬉しいです!
読んでいただけることがとても励みになります
次回もよろしくお願いします。




