残された願い
エルには、ずっと黙っていたことがありました。
それは――なおきの「家族」に関わること。
軽い気持ちでは話せない。でも、いつかは伝えなければいけない。
そんな想いを抱えたまま、三人の夜が静かに始まります。
一章クライマックス、二話目です!そして、三話目も10分後に連投します!!
ハンカチの準備お願いします。
その日の夜
なおき……聞いてくれる?
エルは真剣で、それでもどこか壊れそうなほど優しい顔で、静かにソファーへ腰を下ろした。
「何? まさか今さら僕のカッコ良さに恐れ慄いたとか?」
わざと軽口を叩く。
重い空気が怖かったわけではない‥
エルが少し震えていたから
「……そうそう。ミニエルも来て」
エルは小さく手招きした。
ミニエルが僕の横にちょこんと座る。
……なおき、ごめんね。
私、黙ってたことがあるの。
エルは写真立てを見つめた。
けれど、その視線は写真を見ているというより、もっと遠く――手の届かないどこかを見ているようだった。
優しくて、悲しい目だった。
「うん。どうした?」
ミニエルがぎゅっと僕の腕にしがみつく。
「私ね……なおきのお父さん、知ってるのよ」
…驚いた。
けれど僕は、「うん」とだけ返した。
続きを、聞かなきゃいけない気がした。
「私がまだ天使だった頃ね。死んだ人の疲れた魂を、綺麗にして、温めて、愛を与える……そんな仕事をしていたの」
ミニエルが小さく頷く。
「ある日ね……一人の男の人が、肉体のまま上の世界へ来たの」
その言葉に、思わず息が止まる。
「普通はね、上がる時に魂だけになるの。身体がそのままってことは……絶対に手放せない想いがあるってこと」
エルは一度言葉を切った。
写真立てを見つめるその瞳が、ゆっくり潤んでいく。
部屋には、時計の秒針と室外機の低い音だけが響いていた。
「その人はね、自分がどうなるかなんて一言も聞かなかった」
ハア、と小さく息を吐いてから、続ける。
「私に言ったの。『家族を助けてください』って」
よくある願いだと、エルは言う。
生を司る手伝いをする者にとって、それは珍しくない、と。
「でもね……なおきのお父さんが言ったのは――」
声と唇が震えている
「子供がまだ小さいんです。妻も命が消えそうで……妻は天使なんです、って」
僕の胸が強く打った、そして目を閉じた
「私は本当に驚いた。堕天する天使はいる。でも、子供を宿す天使なんて……話で聞いたことがある程度で、ほとんどないの」
精霊力の強い存在が天使になることはある。
けれど――
「生殖能力はない、っていうのが一般的なの」
そう言いながら、エルはちらりと僕を見た。
その頬が、わずかに赤い。
僕はそれを、見逃さなかった。
「でもね……今なら思えるの。想いって、理屈じゃないんだって」
震える声で、続ける。
「私の身体も、ミニエルの身体も……きっと、あなたの子供なら産めるって」
ミニエルがぎゅっと強く抱きついてくる。
エルは、唇を噛んだ。
「その時の私は、何を言っているのかわからなかった。でも……魂を辿って、あなたを見たの。小さななおきを。たぶん十年前くらい。別の家族の家で暮らしているのを、確認した」
、でもそれだけ
そこで、エルの声が崩れた。
目の前にいる彼女が、言葉にならない想いを必死に吐き出しているのがわかる。
後悔。
申し訳なさ。
できなかったことへの歯痒さ。
ぐしゃぐしゃになった顔が、それをすべて物語っていた。
気づけば、狭いソファーに三人で固まっていた。
僕を真ん中に、二人が寄りかかっている。
そして――
今まで聞いたことのない、エルの泣き声が部屋に響いた。
震えながら、何度も、何度も。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
僕は、うん、うん、と頷きながら頭と背中を撫でることしかできなかった。
ミニエルも、同じように泣きながら謝る。
二人とも悪くないのに。
どれくらい時間が経ったのか。
「でも、お父さんの最後の頼みを聞いて子供の頃の僕を見てくれたんだね。ありがとう!」
涙声のまま、エルがゆっくり身体を起こした。
「……自分のために泣いてる場合じゃ、ないよね」
まだひくひくとしゃくりあげながら、それでも前を向こうとするその姿が――
どうしようもなく、愛しかった。
そしてエルが更に話を続けたーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この回では、なおきのお父さんの話と、エルがずっと抱えていた想いが少しだけ明かされました。
誰かを守りたいという願い。それを受け取った者の後悔。そして、今こうして繋がっている時間。
それぞれの想いが少しずつ重なり始めています。
そして次の話で、なおきは「あること」に気づく真相回です。
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ハンカチを用意してくださいね!
このあと20時20分に連続投稿しますね
それでは、次のお話もよろしくお願いします。




