アマテラさんの願いを叶えた日
初詣のあと。
なぜか――神様が家に来ました。
しかも日本神話でも有名な、あの太陽の神様です。
でも来た理由は、ものすごく軽くて。
「ちょっと暇だったから」
そんな感じで始まる、少し不思議で、ちょっと賑やかな夜のお話です。
「お邪魔しまーす」
玄関に立つ女神様は、あまりにも自然だった。
「……」
なおきは数秒固まる。
「え?」
「え?」
ミニエルとエルが後ろから顔を出す。
「アマテラさん!」
「来たんだ!」
「うん」
にこっと笑う。
「ちょっとねっ!…暇だったから」
神様の「暇だったから」は、どう考えてもスケールが違う気がする。
「これ靴脱ぐの?」
「いやいやいやいや、脱ぐでしょ」
「神様が靴とか興味津々だけれども…エル?大丈夫かな?!」
「あはは、多分?!」
とりあえず家に上がってもらった。
ーーー
「お餅って美味しいね」
砂糖醤油をたっぷりつけて、海苔を巻いたお餅。
それを食べて、アマテラが素直に感動している。
「食べたことないの?」
なおきが聞く。
「神社では食べないのよ」
アマテラは少し笑った。
「神社では炊いたお米だよ!丹精込めて作られたお米だから美味しいよ」
「でもね、人間の家で食べるご飯、前から食べてみたかったの」
ミニエルがもぐもぐしながら言う。
「美味しいでしょ?!」
エルはお茶を飲みながら、うんうんと頷いた。
「うん、本当に美味しい!」
テレビではお正月番組が流れている。
「この番組、毎年同じことしてるんだよ」
「そして同じところで笑うんだよね」
なおきが言う。
「人間って安心するんだよ、きっと」
「なるほどねー」
アマテラが真剣に頷く。
ーーー
そのあと。
人生ゲーム大会が始まった。
「子供三人!」
「え、またぁー?!」
「五人?!」
「アマテラさん子沢山すぎる!!」
ミニエルが大笑いする。
エルはというと――
「……破産」
静かにカードを置いた。
「え?」
「破産」
「え?」
「破産」
「え?」
エルがゆっくり顔を上げる。
「……もう一回やろう」
「怒ってるよこの人!」
「こわいこわい」
ーーー
小腹が空いた4人、年末に食べ損ねていたカップ麺の年越しそばを食べて、アマテラが美味しさに感動して背筋がぴーんとなった
「そういえばさあ、昔、天界でたまに宴会してたよね」
ミニエルが言い出した。
「あなた酔って太陽二個出してたもんね」
エルが真顔で言う。
「それ言う?」
アマテラは頭をかいた。
(……神話壊れる)
(これ学校の歴史の先生に聞かせたら倒れるやつだ)
「あ!なおき聞いて!!」
エルが身を乗り出す。
「アマテラさんね、太陽三つ目出そうとして、弟のスサノオ君に本気で叱られて――天岩戸にお仕置きで監禁されたよね?」
「ばっ!!それ言ったら……!」
「なおきさん?!何か聞こえたかな?」
「僕何も聞いておりません!!」
「なら良かったわ」
「あはは!!」
ミニエルが大爆笑する。
「あと、弟って言われてるツクヨミちゃん、ここだけの話、妹だから」
「おーい!それ言っていかんやつ!!」
「ハァハァ、ハァ……な、なおきさん……き、聞こえた?」
「な、なんも聞こえてません……」
(これ日本神話、全部書き直しだな)
エルが言った「でもね、そんなアマテラさんだからずっと神様として民から慕われてるんだよ」
「昔は神様と人々の距離もすごく近くて、たまに宴も一緒にしてたんだよね!」とミニエル
「懐かしいなぁ」
と言いながらアマテラさんは天井を眺めながら遠くを見ているようだった…
…何気ないお喋りをして、
笑って。
こうして見ていると、
神様というより――
一人の女の子みたいだった。
気づけば夜はすっかり深くなっている
ーーー
ふと見ると、
アマテラがベランダに出ていた。
夜風が、静かに流れている。
なおきが気づく。
「アマテラさん、寒くない?」
「大丈夫」
アマテラは空を見上げていた。
星がきらきらしている。
そこにミニエルとエルもやって来る。
「どうしたの?」
ミニエルが聞く。
アマテラは少し笑って言った。
「ねぇ」
「神様ってね」
「みんなの願いは聞くんだけど」
少しだけ寂しそうに笑う。
「自分の話を聞いてくれる人って、いないのよ」
三人は黙って聞いた。
神社では、いつもそうだ。
お願い。
合格。
恋愛。
健康。
お金。
「でも」
ミニエルが言った。
「今聞いてるよ?」
「うん」
エルも頷く。
なおきも笑った。
「普通に聞くよ」
アマテラは三人を見た。
「……そっか、嬉しいなぁ」
そして笑った。
その笑顔は、さっきまでよりずっと自然だった。
なおきは部屋に戻り、三人分のブランケットと毛布を持ってくる。
そっと肩にかけた。
アマテラはそのブランケットを口元まで引き上げて、ぎゅっと抱きしめる。
エルは毛布で、なおきをくるっと自分と一緒に包み込んだ。
「温かい……」
「うん!」
なおきは横にいるミニエルの手にそっと触れる。
ミニエルも、ぎゅっと握り返した。
ーーー
「でもね…」
「ちょっと聞いてくれる!!?」
エンジンかかった、アマテラが続ける!
「お正月はもっと大変なのよね」
「え?」
「朝から晩まで願い聞くの」
指を折りながら数える。
「交通安全」
「恋愛成就」
「宝くじ」
「健康」
「推しのライブ当選」
なおきが止まる。
「推し?」
「最近多いのよ」
アマテラがため息をつく。
「あとね」
少し真顔で言った。
「ガチャの神引き」
「それ神様に頼むんだ?!」
ミニエルが大笑いする。
エルもくすっと笑った。
(神様も、ちゃんと愚痴るんだな)
三人は、なんとなくそう思った。
ーーー
少しして。
アマテラがなおきを見る。
「ねぇ」
「なおき」
「はい?」
「また来てもいい?」
なおきはすぐ言った。
「もちろん」
ミニエルが手を上げる。
「次は人生ゲームリベンジ!」
エルが言う。
「破産させないで」
アマテラはくすっと笑う。
空を見上げた。
夜空の星が、静かに光る。
「……人間の家って」
少しだけ目を細めて。
「あったかいわ」
ーーー
「逆にアマテラさん、何か他にしたいことないの?」
なおきが聞く。
アマテラは少し考えてから言った。
「……四人並んで寝たいかな」
「そんなことでいいの?」
「みんなで寝よう!」
「おー!」
その夜は、
日本神話で最高位の太陽神―天照大御神にとって
素敵で、楽しくて、
三人の親友ができた日になりました。
神様の願いが叶った日でもありました
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回の話は「神様も、たまには誰かと普通に過ごしたいのかもしれない」というイメージから書いてみました。
願いを聞くことはあっても、自分の話を聞いてもらう機会はきっと少ない。
そんなアマテラが、なおきたちと笑って過ごす夜を書いてみたかった回です。
そして――神様でも、人生ゲームで破産します。
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このあと、話は一章のクライマックスに入っていきます!




