3人のクリスマス 3 〜見えない奇跡〜
クリスマス回、第三話です。
なおきとミニエル、エルの三人で過ごす聖夜も、いよいよ最後の時間。
家の中の小さなクリスマスから、少しだけ外の世界へ――。
三人のクリスマスの結末を、ゆっくり見届けてもらえたら嬉しいです。
(……見えてるの、僕だけなんだよなぁ)
胸の奥で、ぽつりと呟いたその瞬間。
「あ!」
なおきが、ぱっと顔を上げた。
「そう言えば!!」
「え?」
「なおき?」
次の瞬間――
「ちょっと出かけるよ!」
「えぇ!?」
「い、今から!?」
ミニエルとエルは半ば強引にコートを羽織らされ、
三人は夜の街へと飛び出した。
外の空気はきんと冷たくて、
吐く息は白く、
街はすっかりクリスマスの色に染まっている。
出がけにお願いされてミニエルにはネックレス、エルにはブレスレットを付けてあげた!
2人はぴょんぴょん跳ねて喜んだ
商店街も、並木道も、
いつも通る道さえも、
今日はどこか特別に見えた。
あちこちで瞬くイルミネーション。
楽しそうに歩く人々の笑い声。
遠くから聞こえるクリスマスソング。
2人の堕天使はもらったプレゼントを光に当てたり透かしてうっとり見ている。
そして――
人の流れに沿って辿り着いた先で、
二人は同時に息を呑んだ。
「わー!!」
「……すごい……!」
そこにあったのは、
見上げるほど大きなクリスマスツリー。
無数の装飾と電飾がびっしりと飾られ、
夜空へと伸びるそれは、
まるで光そのものの塔みたいに輝いていた。
周囲にはたくさんの人。
カップルや家族連れが写真を撮り、
笑顔でツリーを見上げている。
ここは、
クリスマスになると人が集まる人気のスポット。
なおきが、
ずっと、二人を連れて来たかった場所だった。
「……綺麗……」
ミニエルが、目をきらきらさせて呟く。
エルも静かにツリーを見上げていた。
その横顔は、どこか柔らかい。
なおきは、そんな二人をそっと見つめる。
(いつも……)
祭りも、花火も、季節のイベントも。
二人は隣にいるのに、
どこか《外側》から見ているだけだった。
触れられない。
知られない。
誰の記憶にも残らない。
存在しているのに、
世界に混ざれない。
それでも二人は、
楽しそうに笑っている
叫びたいほど《ここにいるのに!!》
だからこそ――
なおきは、ずっと思っていた…
「ミニエル、エル」
「?」
「ん?」
なおきはツリーを指差しながら、
少しだけ悪戯っぽく笑った。
「クリスマスツリーの周りにさ」
「うん?」
「氷、水、光の力で……ツリーの周りをキラキラにして、見てる人たち感動させない?」
二人が同時に固まる。
「……え?」
「自然の摂理に反するかな?」
なおきが2人に聞いた
一拍の沈黙。
そして――
エルが、ふっと笑った。
「できるよ」
ミニエルも胸を張る。
「今更! 私達、堕天使ですけど!」
その言い方があまりにも誇らしくて、なおきは思わず肩を震わせた!
するとミニエルが、ぱっとエルの方を見る。
「お姉ちゃん! 私、氷を細かい粒にして、水を弾けさすから!」
エルは頷いた。
「了解。光は任せて。全ての水と氷に反射させてやるわ」
そう言って――
二人は同時に、クリスマスツリーへ手をかざした。
次の瞬間。
きらり。
まるで空気が鳴ったような、小さな音。
ふわりと、
ツリーの周囲に細かな氷の粒が舞い上がる。
雪よりも繊細で、
宝石よりも透明な結晶。
ミニエルの力で弾けた水滴が、夜空に無数の粒子となって広がっていく。
そこへ、
エルの光が重なった。
淡く、やさしく、けれど神秘的な光が、すべての水と氷に反射していく。
次の瞬間。
キラキラキラキラ……!
七色。
いや、それ以上とも言えない輝きが、
ツリーの周りを一斉に彩った。
電飾の光と混ざり合い、
光の粒が空中で踊る。
まるで、
星が降ってきたみたいな景色。
「……なに、あれ」
「すご……」
「綺麗……!」
周囲の人々が、思わず足を止める。
顔お見合わせて微笑む人
スマホを向ける人
言葉を失って見上げる人
誰にも見えていないはずの《二人の奇跡》が、特別なイルミネーションとして確実に街のクリスマスを包み込んでいた。
その中心で。
ミニエルはくるりと一回転して、
満面の笑みを浮かべる。
「なおき! どう!? すごいでしょ!!」
「……うん、凄いよ!」
なおきはゆっくり頷いた。
「めちゃくちゃ綺麗だよ」
エルも静かにツリーを見上げながら、小さく微笑む。
「嬉しい…」
その言葉に、なおきの胸がじんわりと温かくなる。
キラキラと輝く光の中で、二人の姿は、誰よりも楽しそうで、誰よりも、この瞬間を大切にしていらようだった!
やがて光はゆっくりと収束し、
ツリーは元のイルミネーションへと戻っていく。
まるで、一瞬だけ現れた奇跡みたいに…
ミニエルは少しだけ息を弾ませながら、なおきの元へ駆け寄った。
「えへへ……」
エルも、その隣に並ぶ。
二人は顔を見合わせてから、そっと、なおきを見上げた。
夜の光を映した瞳が、きらきらと揺れている。
「なおき」
「……ん?」
ミニエルが、ぎゅっとなおきの袖を掴む。
エルは、
いつもより少しだけ素直な声で言った。
「連れてきてくれて、ありがとう」
「私たち……」
ミニエルが、にこっと笑う。
「いつもイベントを見てるだけだったけど」
「今日は違うんだよ!!」
エルが続ける。
「ちゃんと、この世界の中に居るって思えたよ!!」
その言葉に、
なおきは一瞬だけ目を見開いて。
そして、
照れ隠しのように視線を逸らした。
「……大げさだなぁ」
「大げさじゃないよ!」
「うん。今日は、特別だから」
巨大なツリーが輝く中。
誰にも見えない二人が、
誰よりも嬉しそうに眩しく笑っている。
その光景を見て、
なおきは小さく息を吐いた。
(……やっぱり)
連れてきて、よかった。
すると次の瞬間。
ミニエルが、ぱっと手を伸ばす。
エルも、静かにその反対の手を取った。
ミニエルとエルも手を繋いだ
丸く手を繋いだ三人は顔を見合わせて、
そして――
満面の笑顔で、
同時に声を重ねた。
「せーの!」
「メリークリスマス!!」
三人の声が、夜空に溶けていく。
誰にも見えないはずの奇跡は、
それでも確かに、この街のクリスマスの中にあった。
その光の名残が、まだわずかに空気に残っている。
「……ん?」
ミニエルが、ぴくっと反応した。
「今の…」
エルも、何も言わずに視線だけを巡らせる。
ほんの一瞬。
確かに何かが通り過ぎた。
けれど――もう、掴めない。
「なおき?」
ミニエルが振り返る。
「サンタさんって、どんな人なの?」
「んー?」
なおきは少し考えてから、
「髭が長くて、赤い服と帽子被ってるおじいさんかな」
そう答えた。
「…ふーん」
その横で、
エルは、まだ少しだけ空を見ていた。
何かを思い出しそうで、思い出せないような顔で。
けれど――
やがて小さく、微笑む。
「……綺麗だったね」
夜は、何事もなかったかのように更けていく。
けれど。
確かにそこには、
《もう一つのクリスマス》があったのだ…
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回で「三人のクリスマス」は完結です。
誰にも見えない二人だけれど、それでもこの世界の中で、ちゃんと笑って、ちゃんと楽しんで生きている。
なおきにとっても、ミニエルとエルにとっても、この夜はきっと忘れられない思い出になったと思います。
初めてなおき以外に能力を使った回でもありますよね!
(ヤキモチは別として)
書いてるこっちもなんかスッキリしました!!
最後のサンタさんって?!
まあ、それは別の話…
次回も読んでいただけると嬉しいです




