夕陽色の約束
いつも読んでくださってありがとうございます。
今日は少しだけ、不思議で、でもどこか温かい夕暮れのお話です。
何気ない帰り道の中に、ふと差し込む《誰かのまなざし》
きっとそれは、特別な力なんていらない、
ただ大切にするということの物語です。
どうぞ、夕陽と一緒にお楽しみください。
夕方、商店街の帰り道。
揚げたての匂いと、少し冷たくなり始めた風が混ざる。
ミニエルは大好きなコロッケの包みを両手で抱えて、にこにこしている。
エルはじゃんけんで負けて、卵と牛乳を持つ係になった。
「私がコロッケ持ちたかったのに…」
「運命!」
相変わらず可愛らしい二人である。
そのとき。
「あのおじいさん、どうしたんだろう?」
エルの声で足が止まる。
歩道橋の前。
階段の下で、おじいさんが困ったように立っていた。
「……登れないのかな」
なおきはすぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか? 荷物、持ちますよ」
おじいさんは顔を上げ、なおきを見る。
それから、ほんの一瞬だけ――その両隣に視線を流した。
「……ああ。助かるよ」
ゆっくりと、階段を登る。
ミニエルは横で「いーち、にー」と数を数え、
エルは少し後ろから静かに歩く。
途中で、おじいさんが空を見上げた。
「今日は夕陽がきれいだ」
「ですね」
「光の粒が喜んでるな」
エルの歩みが、ほんの一瞬だけ止まった。
瞳が、わずかに揺れる。
だが、おじいさんは振り返らない。
ただ穏やかに続ける。
「君は、夕陽に好かれているな」
「え? そうですか?」
なおきは意味が分からず笑う。
登り切った先で、夕陽が四人を包んだ。
「お礼だよ」
差し出されたのは、三つの飴玉。
夕陽色に透けるそれは、光を受けて内側から淡く灯っている。
なおきが受け取る。
その瞬間。
「大切にしてやっておくれよ」
言葉はなおきに向けて。
だが視線は違う。
エルとミニエルを、まっすぐ見ている。
エルが、ふっと笑みを消した。
まるで何かを思い出したように。
冗談も茶化しもない、静かな顔。
まばたきを一つ。
それから、ほんのわずかに頭を下げた。
小さく、本当に小さく。
おじいさんも、小さくうなずいた。
それは、挨拶というより――
どこか、約束を確かめ合うようだった。
会話はない。
説明もない。
それだけで十分だった。
「それじゃあ」
背を向け、ゆっくりと階段を降りていく。
足取りは変わらない
「エル」
「ん?」
「なんだったんだろうね」
「不思議なおじいさんだったね」
エルは飴を見つめる。
夕陽色に透けるそれを。
「……さあ」
その声は、少しだけ柔らかい。
三人で、飴玉を夕陽に透かす。
きらり、と光が揺れた。
「綺麗だねー」
その余韻をぶった切る声。
「お姉ちゃん!?」
「ん?」
「コロッケ1個でいい?」
「え? なんで? ミニエルは?」
「私、三個!!」
「あんた、馬鹿なの?」
「どうしてそうなった!?」
「ねえ、なおき、この子になんとか言ってよ」
夕陽の中、またいつもの騒がしさが戻る。
なおきは小さく笑った。
《大切にしてやっておくれよ。》
なぜか、その言葉だけが胸の奥に残った。
飴玉は夕陽を映して、小さく光っていた。
今回も読んでいただき、本当にありがとうございました。
賑やかな日常の中にも、
時々そっと差し出される言葉があります。
「大切にしてやっておくれよ」
その一言が、なおきの中でどう育っていくのか。
三人のこれからを、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
また次の物語で。




