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ショッピングモールへ

いつも読んでくださってありがとうございます。


今回はエルの「人間界デビュー(?)」回です。


楽しそうな人間たちを、ずっと遠くから見ていただけだった彼女が、

“自分の足で”その世界に触れにいくお話。


ショッピング回ですが、

ただの着せ替えではなく――

エルが「ここにいていい」と思える瞬間を書きたくて綴りました。


少しでも、きらきらとした気持ちが伝われば嬉しいです。


それでは本編へどうぞ。


途端に目をキラキラと輝かせ、ソファからぴょんと飛び降りる。そのまま勢い余ってくるりと一回転。


着地。どや顔。


「うーん、どこにしようかなぁ?」


両手を後ろに組み、わざとらしく天井を見上げる。

――絶対もう決まってる顔だ。


ぽんっ、と手を打った。


「ねぇ、今日はお外に行きたい! 人がいっぱいいて、おいしそうな匂いがする場所! お祭りみたいなとこ、行ってみたいな!」


「やけに具体的だな……あ、知ってるんだ? 天界から下界を見てたりとかするの?」


エルはきょとんと首を傾げる。

“天界”という言葉に、ほんの一瞬だけ視線が遠くなった。


けれどすぐに、にぱっと笑う。


「下界はね、たまにこっそり見てるよ。人間たちが楽しそうにしてるのを見るの、すきなんだ」


少しだけ声が柔らかくなる。


「きれいな服を着てたり、美味しそうなもの食べてたりするでしょ? そういうの、ぜんぶぜーんぶ……いつかわたしも体験してみたかったの!」


両手をぎゅっと握って、ぐっと前のめり。


「じゃあ、服でも見に行く? 見た服、自分に着せられるんでしょ? 昨日みたいに」


その瞬間。


エルの時間が止まった。


「……ふく?」


ゆっくりと、なおきを見る。


「ふ、服!? いいの!? 人間のお洋服、着ていいの!?」



駆け寄って、なおきのズボンの裾をぶんぶん揺さぶる。


昨日までの人見知りはどこへやら。

純度100%のはしゃぎ。


「やったぁーーーっ! 行きたい! 絶対行きたい! 派手な色のスカートとか! ふわふわのニット帽とか! あとね、あとね!」


「落ち着け、服屋は逃げない」


「逃げるよ! わたしが行かないと逃げる!」


意味が分からない。


「うんうん、じゃ、行こうか」


なおきが立ち上がると、待ってましたとばかりにエルは両手で手を引いた。


ぐいぐい。


「はやくはやく! 人間界デビューだよ!」


「デビューって何?!」


というわけで、若干引きずられながら、二人はショッピングモールへ向かった。




モールに到着すると、色とりどりの商品が並ぶショーウィンドウにエルは釘付けになった。


「うわぁ……! すごい、すごい! きらきらしてて、全部かわいい……!」


マネキンを指差し、興奮気味に振り返る。


「ねえねえ、あれ! あれと同じの、わたしも着てみたい!」


「イメージして魔法かけてみたら?」


エルはこくこくと頷き、ガラスに映る自分をじっと見つめる。


「いくよ……見ててね、なおき」


ふっと息を吸い、目を閉じる。


淡い光が身体を包み、次の瞬間――弾けるように消えた。


そこに立っていたのは、さっきまでの少女ではなかった。


肩下で跳ねていた金色の髪は、肩甲骨の下まで滑らかに伸び、光を受けるたびに柔らかく揺れる。

自然と視線の高さが近づく。


思わず、息を呑んだ。


触れたら消えてしまいそうな透明感。

けれど存在感ははっきりと強い。


まるで光の方が、彼女を選んで照らしているみたいだった。


綺麗、なんて言葉じゃ足りない。


言葉にした瞬間、安っぽくなる気がして――

それくらい、綺麗だった。


澄んだあさぎ色の瞳が、少し不安そうに揺れる。


「どう……? 似合う……?」


「やば……マネキンより似合ってる」


ぱあっと顔が輝く。


「ほんと!? 似合ってる!?」


くるりと回るスカートの裾。

空気まで華やぐ。


「……マネキンよりって、褒めるの下手か!?」


「いや、ちゃんと褒めてる」


むしろ言葉が追いついていない。



「じゃあ次はこれも! あ、これもいいな! なおき、どっちがいい?」


「両方見たい」


「えっ、両方!? なおきさん欲張りですねー!!」


そう言いながらも嬉しそうに試着室へ駆け込む。


人から見えないのに、律儀に試着室へ入るあたりがエルらしい。


少ししてカーテンが開く。


今度はボーイッシュなデニムスタイル。腕を組み、少し大人びた表情。


「どうかな? かっこいい系も似合うんだよ、わたし」


「かっこいい」


即答だった。


照れ笑いしながらくるりと回る。


「じゃあ、もう一つも見せて」


三度目に現れたのは、フリルとリボンに包まれたお姫様ドレス。髪もアップにしている。


「どうかな……これなら、なおきだけのお姫様かな?」


上目遣い。


反則だ。


「えへへ……こんなに可愛いお姫様、他にいないんだから」


腕にすり寄る。


「なおきだけのものだよ。だから……もっと褒めて?」


「ありがとう、僕のところに来てくれて」


その瞬間。


エルの動きが止まった。


瞳が見開かれ、ぽろり、と涙が零れる。


「やば……涙出た……な、なんでそんなこと言うのよ……ばか……」


抱きつく。


「うれし……。わたしも……なおきのところに来れて、ほんとによかった……。ずっと、寂しかったんだから……」


「寂しさの反動で出会えたのかな。じゃあ僕も同じだよ」


気づけば、腕の中はもう小さなエルだった。


「うん……そうかも……反動かもね……神様のいじわる。でも、ありがとって思う」


頬を赤らめる。


「どこにも行かないでね……」


「もちろん。ミニエルもね」


「それにさ、僕しかエル見えないって便利だよね。抱きしめたいとき、すぐ抱きしめられる」


「便利って……」


むっとする。


でも腕は緩まない。


「……そっか。なおきはいつでも抱きしめたいんだ」


得意げに笑い、耳元で囁く。


「じゃあ……今、抱きしめたい?」


「もちろん」


「ってか、今抱きしめてるけど?」


くすっと笑う。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回はコメディ強めからの、最後は少しだけしっとり。


エルにとって「服を着る」というのは、

人間の真似ではなく――

“人間の世界に参加する”ことなんですよね。


そしてなおきの何気ない一言が、

彼女にとってどれほど救いだったか。


「ありがとう、僕のところに来てくれて」


この言葉は、きっとこれからも

二人の軸になっていくと思います。


そして最後のやり取りは……

便利扱いされつつも、ちゃんと甘い堕天使でした(笑)


感想やブクマもしていただけたら嬉しいです


これからもよろしくお願いします。

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