2人だけの秘密
堕天使は、光を失った存在だと思っていた。
けれど本当は――
光を知っているからこそ、欲も、ぬくもりも、孤独も、強く感じてしまうのかもしれない。
小さな姿も、大人びた姿も、どちらもエル。
触れたくなる距離と、触れてはいけない距離。
その境界線上で揺れる、二人の夜のお話です。
少しだけ、近づきすぎた回かもしれません。
それでも――
それもまた、家族になっていく途中の、ひとつの形。
どうぞ、静かな気持ちでお読みください。
淡い光がゆっくりと収まっていく。
そこに立っていたエルは、さっきまでとは明らかに違っていた。
肩下で跳ねていた金色の髪は、いつの間にか肩甲骨の下まで伸び、さらりと流れ落ちている。
シルクのように滑らかで、光を受けるたびに柔らかく輝いた。
身長も、なおきよりほんの少し低いくらいまで伸びているし、頭の上の輪っかもなんだかクッキリして見える
自然と視線の高さが近づき、思わず息を呑んだ。
けれど――
その瞳だけは変わらない。
澄んだあさぎ色の瞳が、いたずらっぽく細められる
「どう? ちゃんとお姉さんでしょ?」
「これならお姉ちゃんって呼んでもいいんじゃない? ……なおき。」
壁に手をつき、逃げ道を塞ぐように近づくエル。
大人びた姿と、わずかに震える吐息。
なおきは思わず視線を逸らした。
「ちょ、ちょっと近いって……」
「あら? どこが?」
にやりと笑うが、耳はほんのり赤い。
距離が、、ない。
体温が伝わる。
息が触れる。
なおきの鼓動が、はっきりと早まった。
「……やばい」
その一言で、エルの余裕が崩れた。
「え? な、何が…?」
「そんなエルが近づいたら、普通にドキッとする。」
「え……」
「僕、男だから。」
エルの耳まで真っ赤になる。
「そ、それ先に言ってよ!」
「いや、エルが始めたんだけど。」
「うぅ……」
真っ赤になったエルが、勢いよくなおきの胸を押す。
けれど離れたあとも、二人の鼓動だけは、しばらくうるさいままだった。
ふたりの間に流れる空気が、甘く重くなる。
二人は顔を見合わせて、同時に吹き出した。
少し開いた窓から夜風が入り、カーテンを揺らす。
さっきまでの緊張が、少しずつ笑顔に変わっていく。
「……また、その姿見せてね?」
「気が向いたらね。」
エルは照れ隠しのように笑った。
ーー
そして翌朝、
「うぅ……苦しい……」
目を開けると、小さなエルがお腹に足を乗せて眠っていた。
昨夜の大人びたエルの姿は影もなく、無邪気に寝返りを打っている。
なおきは苦笑する
どっちも、エルだ。
小さな手がぎゅっとシャツを掴む。
「ん……なおき……おはよ……」
その寝ぼけ声に、胸があたたかくなる。
昨日の熱も、今の穏やかさも、どちらも大切な日常‥
「今日はどっか行く?」
大人のエルと、いつもの小さなエル。
どちらが本当なのか――ではなく、
どちらも本当、という回でした。
背伸びをする夜もあれば、
安心して甘える朝もある。
人は(堕天使も)きっと、その両方でできているのだと思います。
なおきが守りたいのは、強いエルだけじゃない。
無防備に眠る小さなエルも、全部。
そしてエルもきっと、
大人の自分で包み込みながら、子どもの自分で寄り添っている。
熱のある夜も、穏やかな朝も、
どちらも二人の日常。
さて。
今日はどこへ行こうか。
次回も、少しずつ距離を縮めながら、
でもちゃんと大切に進んでいきます。
いつも読んでいただきありがとうございます!




