天使のスキル
愛は、与えるものなのか。
それとも、受け取るものなのか。
堕天使エルは、
なおきのために天界規模の力を使います。
でも、なおきの願いは
たぶんもっと単純で。
これは、
愛エネルギー全開放のあとに、
お腹が鳴る話
そして、人差し指をくいっと立て、いたずらっぽく笑う。
「じゃあ、ちょっとこっち来て」
引っ張るでもなく、数歩先で立ち止まる。
振り返った笑顔は、妙に自信満々だった。
「さっきのお礼。なおきがわたしを幸せにしてくれたみたいに……今度は、わたしがなおきを幸せにしてあげる」
そう言って目を閉じ、胸の前で両手をぎゅっと握る。
「なにしてるの?」
「しーっ。今、すっごく集中してるから。動かないで?」
その声は、さっきまでとは違って真剣だった。
次の瞬間。
ふわり、と優しい風が周りの空間をを包む。
花の蜜のような甘い香り。
春の日だまりみたいな、やわらかな温もり。
カーテンが静かに揺れる。
エルの金色の髪が、淡く光をまとった。
風はなおきをそっと包み込み、胸の奥まで染み込んでくる。
疲れも、不安も、張りつめていた心まで。
優しくほどけていく。
「……どう?」
ゆっくり目を開いたエルが、小さく微笑む。
「これが、天使のハグ」
誇らしそうに胸を張る。
「すごい……」
なおきは胸に手を当てた。
「なんて言えばいいんだろう。抱きしめられてるみたい」
エルは嬉しそうに笑う。
「それが、愛。わたしの全部」
風は静かに消えていく。
それでも、胸に残った温もりだけは消えなかった。
「ちゃんと伝わった?」
「うん。でも……僕、こんなにもらって、ちゃんと返せるかな」
きょとん、と首を傾げる。
「返さなくていいよ」
少しだけ唇を尖らせた。
「わたしがしたいからしてるの。なおきに笑ってほしいから」
少し照れくさそうに笑う。
「……あ、正確には魔法じゃなくて、天使の力なんだけどね」
そう付け加えながら、なおきの袖をきゅっとつまむ。
「だから、何も考えなくていい。受け取って」
なおきは少し笑った。
「僕、わがままだからさ。これからもっと要求しちゃうかも」
その瞬間。
エルの瞳がぱっと輝く。
「わがまま!? いいよ!」
ぐいっと身を乗り出す。
「むしろ大歓迎! なんでも言って! 天界規模で叶えるから!」
「スケールが大きいなぁ」
「なおきのお願い、楽しみだなぁ。『ずっとそばにいて』とか、『永遠に一緒に』とか?」
期待に満ちた瞳。
なおきは少し考えてから、ぽりぽりと頬をかいた。
「まずは……お腹空かない?」
沈黙。
「……ごはん?」
神秘的だった空気が、一瞬で崩れる。
「ちょっと待って? 今わたし、天使のハグしたよね?」
「うん。すごかった」
「もっとこう……『君なしじゃ生きられない!』とかないの!?」
「それも本当だけど、お腹空いてると何も考えられないタイプだから」
エルはがくりと肩を落とした。
「なおきは、もう少し雰囲気を大事にしたほうがいいと思う」
なおきは真顔のまま答える。
「でもさ」
少し照れくさそうに笑った。
「好きな人と一緒にご飯を食べるって、それだけで幸せじゃない?」
エルはぱちぱちと瞬きをする。
そして数秒後。
「……それ、ずるい」
頬をふくらませながらも、なおきの袖だけは離さなかった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
どれだけ大きな力を持っていても、
最後に欲しくなるのは、
隣にいる誰かと食べるごはんだったりします。
エルの「全部」と、
なおきの「一緒に」。
ふたりの距離は、
派手な奇跡よりも、
こういう時間で少しずつ近づいていくのかもしれません。
今回も読んでいただきありがとうございました!!




